
「ロゼレム」とは、ラメルテオンを成分とした、自然な眠りのメカニズムを後押ししてくれる睡眠薬です。
それまで主流だったベンゾジアゼピン系睡眠薬とは全く違った作用機序を持ち、安全性が高いと注目されています。
そこで、ロゼレムがどのような仕組みで睡眠を促すのか、そして効果は?また、副作用や使用する際の注意点に関してもご説明していきましょう。
この記事の目次
ロゼレムとは?
「ロゼレム」とは、2010年に武田薬品から発売された、不眠症における入眠障害を改善してくれる睡眠薬です。
メラトニン受容体に働きかけて自然な眠りを誘発するため「メラトニン受容体作動薬」と呼ばれています。
また、人間の睡眠リズムを制御している「体内時計」に働きかけて眠りをもたらすことから、「体内時計調整薬」とも言われています。
使用量は、成人で1日1回8mgを経口投与します。
ロゼレムは、「健やかな眠りを取り戻し、ばら色の夢を見ましょう」との願いから、「Rose(バラ)」と「REM(レム睡眠)」で「rozerem(ロゼレム)」と命名されました。
夢はほとんどレム睡眠で見ますので、自然な眠りを促してくれるロゼレムに相応しい名前ですね。
ちなみに、ロゼレムはドラッグストアなどで市販されていない医薬品ですので、医師の処方が必要になります。
作用する仕組み(作用機序)
そもそも人間には、朝になると目覚めて夜になると自然に眠くなるという睡眠リズムがあります。
これは、視床下部の視交叉上核と言われる部分が朝の太陽光を感じ取って、脳内の松果体と呼ばれる部分に、睡眠ホルモンであるメラトニンを作って14~16時間後に分泌するよう指令を出すためです。
松果体はメラトニンを作り、指令通りに14~16時間後、つまり夜になって分泌させます。
分泌されたメラトニンは、視交叉上核にあるメラトニン受容体と結合して作用し、深部体温が低下したり代謝が低下することで眠くなるのです。
ですが、不眠症や睡眠障害といった問題を抱えている方たちの多くは、メラトニンの分泌量が不足しています。
そこで、不足しているメラトニンを補うため、メラトニンに代わって同じ働きをする薬剤として開発されたのが「ロゼレム」です。
ロゼレムの特徴
私たちは、松果体から分泌されたメラトニンがメラトニン受容体に作用することで眠くなります。
そして、メラトニン受容体には「M1受容体」「M2受容体」「M3受容体」と3種類あることをまずは知ってください。
M1受容体は神経を穏やかにして深部体温を低下させ自然の眠気を誘う働きを、M2受容体は体内時計を同調させる働きを持っています。
この2つは脳内の松果体だけに存在しており睡眠とも深い関わりがありますが、M3受容体は全身に存在しています。
そのため、M3受容体に作用すると運動や記憶などの障害が起こると言われています。
ロゼレムはM3受容体には作用せず、M1受容体とM2受容体にのみ作用するよう作られています。
つまり、体内時計のリズムを整えて睡眠を促す効果はありますが、記憶障害や運動障害や依存性といった副作用はほとんどないのです。
しかも、ロゼレムの睡眠を促す作用はメラトニンより3~6倍も強いと言われています。
ロゼレムの効果は?
ロゼレムは体内時計を調節して眠気をもたらすという仕組みであるため、残念ながら従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬のようなはっきりした効果はあまり期待できません。
睡眠効果だけなら、「弱い」もしくは「やや弱い」といったところでしょうか。
特にイライラや不安など精神的なものが要因である場合の不眠症や睡眠障害には効かないようです。身体に優しい薬である反面、即効性は薄いと思われます。
また、人によっては飲んだ日からすぐにある程度の効果を実感できることもあれば、1週間ほどしてから効果があらわれる人もいます。
ロゼレムは飲み続けることで少しずつ眠りを改善していく薬なので、効果をしっかり感じられるまでは期間が必要になります。
しかし、体内時計の乱れからくる不眠症や睡眠障害には効果が期待できます。
ロゼレムには体内時計のリズムを同調させる働きがありますので、時差ボケや不規則なシフト勤務などからくる概日リズム睡眠障害には即効性があり、大きな効果を発揮します。
効果はどのくらい持続するのか?
ロゼレムを服用した後、1時間以内に有効成分ラメルテオンの血中濃度が最高値になり、血中濃度が半分になるまでにかかる半減期も約1時間前後です。
つまり、ロゼレムの効果が直接的に働くのは服用して約1時間後からの1時間ほどということです。
一般的な睡眠薬に比べると、睡眠作用があらわれるまでに時間がかかり、作用している時間は短いことになります。
ですが、ロゼレムの睡眠効果は有効成分であるラメルテオンの代謝物(体内に入って変化したもの)にもあります。
もっとも多い「M-2」と呼ばれる代謝物の半減期はロゼレムのおよそ倍です。ですから、ラメルテオンの効果が失われた後もM-2の睡眠効果は続きます。
ただ、ロゼレムは強制的に眠らせるという種類の薬ではありません。不足しているメラトニンをカバーして、自然な眠りに入れるよう手助けをするものです。
そのため、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬のようにはっきりとした作用時間というのはあまり意味をなしません。
たとえ作用時間が短いように感じられても、血中濃度が落ちたあともメラトニンは自然に分泌されるので睡眠は維持されるのです。
ロゼレムはいつ服用すればいい?
ロゼレムは就寝前の空腹時に飲むのが原則です。
ロゼレムを食後に服用すると、空腹時の服用より最高血中濃度が低下して睡眠効果が減ります。そして、眠気がくるのが遅くなるため翌朝まで眠気が持ち越されることもあります。
また、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬などは、一般的に服用後30分ほどで効果が出てくるものが多いようです。
しかしロゼレムはまったく違ったカテゴリーの薬ですから、飲んでから眠くなるまでに時間がかかります。
寝る直前に服用してもすぐに睡眠効果はあらわれませんので、就寝する時間の1~2時間前には飲んでおきましょう。
副作用について
ロゼレムは自然な眠りのメカニズムを後押しする薬であるため、身体に負担がかかりにくく副作用も少ない、安全性の高い睡眠薬となっています。
ですが薬である以上、副作用がまったく無いと言い切ることはできません。
体調や個人差によっては、翌朝まで持ち越してしまう眠気、倦怠感や頭痛、吐き気やめまいなどが起きることもあります。
とはいえ、これまでの副作用としては、傾眠や眠気が3.4%、頭痛が1.0%、倦怠感や脱力感が0.5%、めまいが0.5%と、5%に満たないものがほとんどです。
耐性や依存性もほとんどないと言われています。
長期にわたって服用した場合には、ごく希に生理不順や無月経、性欲減退といった副作用もみられますが、ロゼレムは医師からの処方でのみ服用することができる睡眠薬です。
服用しているうちに身体に異常を感じたら、すぐに医師に相談することでこのような副作用を避けることができます。
ロゼレムが効かない場合、その理由とは?
従来の睡眠薬からみると、ロゼレムはなかなか効果を感じられないようです。
ロゼレムに即効性はそれほどありませんので、少なくとも2週間ほど継続して服用しなければ効果は実感できません。
そのため、飲んだらすぐに眠れるようになりたいと思っている方には、ロゼレムは向いていないと言えます。
また、睡眠効果も従来のものに比べれば弱いので、重度の不眠症や、それまでに不眠治療を行ったことがある方にも効果が薄いと感じられるようです。
そして、ロゼレムには抗不安作用が含まれていません。イライラや不安などの精神的要因が不眠の原因となっている場合には、ロゼレムは効果を発揮することはないでしょう。
ロゼレムを一定の期間飲んでみたが効果を感じられないという方は、医師に相談して症状に合った睡眠薬に変更することを考えてみてください。
ロゼレムの服用に適している人とは?
ロゼレムの適応は「不眠症における入眠困難の改善」です。
体内時計を調整して眠りをもたらす、ゆるやかな睡眠効果のある不眠症治療薬なので、効果を実感するには2週間以上はかかります。
ロゼレムでの不眠の改善に適しているのは、
・寝つきが悪い「入眠障害」
・夜中に目覚めて再入眠できない「中途覚醒」
・睡眠時間は充分なのに疲れが取れない「熟睡障害」
・体内時計の乱れから熟睡できない「概日リズム睡眠障害」
・不規則なシフト勤務などで就寝時間が一定でない方
・生活が昼夜逆転している方
・メラトニンの分泌量が不足している高齢者
・依存性の少ない睡眠薬を使用したい方
などです。
メリットとデメリットとは?
メリットとしては、
・体内時計のリズムを整えて睡眠を促す仕組みであるため自然な眠気と深い睡眠が得られること
・耐性や依存性がほとんどなく安全性が高いこと
・ふらつきが少ないため高齢者も安心して服用できること
・筋弛緩作用がないため「睡眠時無呼吸症候群」の治療中でも服用できること
・副作用が少ないこと
などが挙げられます。
そしてデメリットには、
・従来の睡眠薬に比べて効果が弱いこと
・即効性が低いこと
・効果を実感するには一定の期間が必要であること
・薬価が高いこと
・ジェネリック医薬品がないこと
・抗不安作用が含まれていないため精神的要因からくる不眠症には効果が期待できないこと
・服用してすぐに眠気がこないため就寝1~2時間前には飲んでおかなければならないこと
などがあります。
服用で気をつけること
ロゼレムを服用してはいけない方
重い肝機能障害がある方は、肝臓の機能が低下しているため代謝が遅れて、ロゼレムの作用が強く出る可能性が高くなります。
軽~中程度の肝機能障害がある方も注意が必要です。
また、ロゼレムを飲んでアレルギーなどが起きたことがある方も使用が禁止されています。
服用する際に注意が必要な方
重い睡眠時無呼吸症候群の方や脳に病気のある方は、まだ使用経験がないため安全性が確立されていません。必ず医師への相談のもと服用しましょう。また、緑内障の方の使用は問題ないとされています。
高齢者の場合
高齢になると生理機能が低下する傾向があり、血中濃度(血液中の薬物濃度)が上昇する恐れもありますので、症状を見ながら医師の指示に従って慎重に服用してください。
妊娠中・授乳中の方
妊娠中の方や授乳中の方がロゼレムを使用することに対しての安全性はまだ確立されていません。
できるだけ使用は避けたいところですが、医師が、ロゼレムを使用することで得る有益性の方が危険性より高いと判断した場合に限って使用されるかもしれません。
ロゼレムは市販薬ではなく医師の処方のみで服用できる薬ですので、医師の診断を受けて処方された場合は用法・用量を必ず守ってください。
他の薬との飲み合わせ
ロゼレムの飲み合わせで注意したいのは、抗うつ剤「フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)」です。
併用してしまうと、ロゼレムの血中濃度が著しく上昇して作用が強く出る危険性があります。
また、「抗真菌薬」のイトラコナゾール・「マクロライド系抗菌薬」のクラリスロマイシンなどとの飲み合わせにも注意が必要です。
不眠症や睡眠障害の改善にロゼレムを希望する場合には、医師に現在使用している薬をすべて報告しておきましょう。
アルコールとカフェイン
アルコールはロゼレムの働きを強めて副作用が強まる可能性があり、お茶やコーヒーに含まれるカフェインはロゼレムの効果を弱めてしまうことがありますので、なるべく控えた方が良いでしょう。
医師の指示は必ず守る
ロゼレムは医師の処方によってのみ服用できる安全性の高い睡眠薬ですが、指示を守って服用しなければ効果が出ないどころか逆効果にもなりかねません。
薬が効かないからと自分の判断で使用量を増やしたり、飲む時間を勝手に変更することはやめましょう。
一時的に薬が効きすぎて起きられなくなったり、起きても頭がボーッとしていたりと、日常生活への悪影響が考えられます。ふらつきやめまいから事故につながる可能性もあります。
医師の指示は必ず守って、正しい用量と用法で不眠を改善しましょう。
まとめ
ロゼレムは、体内時計を整えることで自然な眠りを誘発する、新しいタイプの身体に優しい睡眠薬です。
強制的に眠らせるわけではなく、「朝になると目覚め夜には眠くなる」という自然な睡眠の流れを手助けしてくれるため、睡眠効果は弱く即効性もあまり期待できません。
ですが、生活リズムの乱れを根本的に治したい方、睡眠薬の副作用や依存性が怖い方などにはぴったりの睡眠薬です。
じっくりと治療することで、不眠症や睡眠障害を改善していきましょう。