
寝ている時に大きな声で寝言を言ったり急に叫んだりする人、あなたの周りにはいませんか?
頻繁に起きるわけでなく、これといった被害がなければ「よく寝ぼける人だなぁ」で済むのでしょうが、もしかしたらそれは「レム睡眠行動障害」の症状かもしれません。
このレム睡眠行動障害というのはどの年齢層でも発症するのですが、とくに50歳以降の年齢層が多く、しかも発症した患者さんの90%が男性だと言われています。
ただ、なぜ男性に多く発症するのかはまだ不明なようです。
そして、女性の発症例がまったくないわけでもありませんし、なにより心配なのは、いずれ大きな病気に発展する可能性があるという事です。
家族やパートナー、またあなた自身に「寝ぼけ」た経験があったり症状に思い当たる節があるなら、レム睡眠行動障害の可能性も考慮に入れて、早めに検査を受けて対策を考えましょう。
この記事の目次
レム睡眠行動障害とはどんな病気?
「レム睡眠行動障害」とは、レム睡眠の時に体が動く夜間異常行動で、睡眠時随伴症に分類される睡眠障害のことです。
「Rem sleep behavior disorder」を略して「RBD」とも呼ばれています。
睡眠には、脳が活動して身体が休憩している状態の「レム睡眠(浅い眠り)」と、身体が活動して脳が休憩している状態の「ノンレム睡眠(深い眠り)」の2つがあり、とくに夢を見やすいのはレム睡眠時だと言われています。
通常のレム睡眠中であれば、脳は活動していますが、身体は休息モードで脳から筋肉を緩めるよう指令が出されているため、本来なら力が入らない状態になっています。
ですからどんな夢を見ても、たとえ夢の中で大暴れしていたとしても、現実の世界で同じように身体を動かすことは出来ないのです。
しかし、レム睡眠行動障害の場合は、何らかの要因で脳からの指令がうまく伝わっておらず身体が活動モードになっているため、身体に力が入り、夢の中での行動がそのまま現実の世界でも起こってしまいます。
夢の中で怒鳴っていれば現実にも怒鳴り、暴れていれば現実でも暴れてしまうのです。
これらの行動は、翌朝目覚めた時には本人はほとんど覚えていません。
ですが、異常行動の最中に起こされると、たった今見ていた夢の内容をハッキリ話すことが出来る特徴を持っています。
また、夢の内容としては恐怖を伴うものや暴力的なものが多いというのも特徴です。
そのため、睡眠中の行動が家族や自分自身を傷つけてしまう危険性をはらんでいるのです。
レム睡眠行動障害はあまり知られていない?
レム睡眠行動障害は医療関係者の中でも知らない人が多く、単なる寝ぼけやストレスや精神科疾患と誤解されることもあり、せん妄や認知症と誤診されることも少なくありません。
よくある「寝ぼけ(睡眠時遊行症)」や「夜尿症(睡眠時遺尿症)」などは、たしかにレム睡眠行動障害と同じく、睡眠中に起こる異常行動の「睡眠時随伴症(パラソムニア)」に分類されます。
しかし、寝ぼけや夜尿症はノンレム睡眠からの覚醒時に起きる5~12歳の小児に多い障害で、レム睡眠行動障害はレム睡眠時に起きる50~60代に多い障害で寝ぼけとはまったく別物です。
そのまま放置していると本人にも家族にも危険が及ぶ可能性があり、睡眠中で無意識なため悪気もなく力加減も出来ない、厄介で怖い面を持った睡眠障害と言えます。
また、レム睡眠行動障害を発症した後に、「パーキンソン病」や「レビー小体型認知症」へ発展する場合もあります。
特効薬もあるのですが、認知度の低さから診断が遅れることもあるようです。
レム睡眠行動障害を改善するには、まずは症状を見極めて、少しでも早く診察と検査を受けて治療を始めることが大事です。
レム睡眠行動障害の症状とは?
レム睡眠行動障害の症状は、レム睡眠中の、夢を見ている時にのみ起こります。夢の内容は非常に鮮明で、誰かに追いかけられる、暴力を受けている、殺されそうになる、恐ろしい物から逃げるなど、悪夢であることがほとんどのようです。
そのため、抵抗するために暴れたり、恐怖から大声で叫んだり、手足をバタバタと激しく動かしたり、飛び起きて走り出したり、何者かに反撃するために殴ったり蹴ったりします。
中には、隣で寝ていた奥さまの首を絞めたという危険なケースもあるのです。
もちろん本人に自覚はないので、声をかけたり身体を揺すったりして起こせば、すぐに目を覚まして我に返ります。
そして、どんな夢を見ていたのか聞いてみるとしっかり説明もできます。
とはいえ、意識がないまま悪夢と戦っているのですから、本人は怖いものから逃げようと必死で力の加減なども出来ません。
そのため、レム睡眠行動障害では、寝室の物が壊れたり壁に穴が空いたり、本人や隣で寝ている人がケガなどを負って、それで初めて受診することが多いようです。
睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返しており、レム睡眠は寝付いて60分以上経つと訪れます。
その後も約90分毎にレム睡眠はやってきますが、目覚める時間が近づくにつれて、レム睡眠の時間が長くなります。
つまり、レム睡眠行動障害の夜間異常行動も、夢を見やすい朝方に現れることが多いのです。
症状が発生する頻度は、1週間に1度というのが一般的と言われていますが、個人差はあり、中には、一晩で2~3回異常行動を繰り返すケースもあるとのことです。
レム睡眠行動障害の原因とは?
レム睡眠行動障害の原因は、身体が休息しているべきレム睡眠中に、身体が動かせる状態になっていることにあります。
その原因には2つあり、1つは明らかな原因が見当たらない「特発性」、もう1つは薬や他の疾患によって引き起こされる「二次性」のものです。
特発性と二次性の比率は6:4で、とくに最近では原因不明の特発性が高齢者の男性に急増しています。
また、根本的な原因は分かってないものの、患者さんの約半数に脳や脊髄の「中枢神経系の疾患」がみられます。
レム睡眠行動障害の、夢の中の行動が現実の世界でも行われ異常行動をとってしまうというのは、脳が筋肉を緩めるよう出した指令がうまく作用していないからです。
そのため、パーキンソン病やレビー小体型認知症などの病気によって、脳幹網様体などの部分が傷ついたことが原因ではないかと考えられています。
つまりレム睡眠行動障害は、パーキンソン病やレビー小体型認知症などの病気の前兆という可能性が少なからずあるということです。
事実、レム睡眠行動障害の患者さんの多くが、5~10年後にパーキンソン病やレビー小体型認知症を発症しているという報告があります。
ちなみに、三環系抗うつ剤や選択的セロトニン再取り込み薬(SSRI)などの薬は、レム睡眠行動障害の引き金になる可能性があります。
そして、強いストレスや過剰なアルコールもレム睡眠行動障害を引き起こすきっかけになってしまいます。
とくにアルコールは、異常行動に拍車をかける事にもなりかねません。
症状がおさまるまではアルコールは控えて、良質な睡眠をとるよう心がけましょう。
パーキンソン病
主に40~50代以降に発症する原因不明の、脳の異常のために体の動きに障害が現れる病気で「神経変性疾患」のひとつです。
高齢者に多くみられる病気で、じっとしている時に手足が震えたり、筋肉がこわばったり、身体がうまく動かせなくなります。
また、パーキンソン病の前兆としてレム睡眠行動障害を発症することがあります。
気持ちが落ち込んだり不眠症などの症状があるとうつ病と間違われることがあり、高齢で発症すると認知症と誤診されることもあります。
レビー小体型認知症
「レビー小体」とは神経細胞にできる特殊なタンパク質のことで、このレビー小体が大脳皮質や脳幹に集まって神経細胞を減少させることで起こる認知症の症状です。
主な症状は「幻視」で、「子供が3人いる」「男の人があそこに立っている」など幻を具体的に表現したり、電柱を人と見間違えたりもします。
また、泥棒に入られた、物を盗まれたなどの被害妄想を抱くというのも特徴にあげられます。
レム睡眠行動障害の診断「睡眠ポリグラフ検査」
レム睡眠行動障害の症状の度合いは人によってさまざまで、「1週間に1度ぐらい叫び声をあげる」人もいれば「一晩に数回暴れる」人もいます。
自分がどの程度の症状なのか、症状の内容や頻度を把握している家族に同行してもらって、睡眠外来で診察を受けましょう。
診断には、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなどの過眠症の診断にも使われる「終夜睡眠ポリグラフ検査」が使用されます。
レム睡眠行動障害は、レム睡眠中に筋肉が緩んでいないために起きるものですから、この検査では筋肉の緊張状態を調べます。
睡眠中の異常行動を調べるためにビデオ撮影を行って記録もします。
それによって、レム睡眠中にもかかわらず「オトガイ筋」という筋肉が活動していたり、ビデオモニターで異常行動が確認されたらレム睡眠行動障害と認定されます。
レム睡眠行動障害の薬物治療
クロナゼパムレム
睡眠行動障害の治療には薬物療法が有効とされているため、「クロナゼパム」という薬を投与してもらうことになります。
このクロナゼパムは抗てんかん薬で、神経系の活動をしずめる作用があり、悪夢を減らして異常行動を抑える効果があると言われています。
症状の頻度が少ないほど薬も少量で済み、完全に治ることは少ないものの、ほとんどの場合は数日~1週間でレム睡眠行動障害の症状が緩和されます。
ただし、レム睡眠行動障害を根本的に治療できるわけではありませんので、服用をやめると症状が再発する可能性が高いです。
また、クロナゼパムには睡眠時の無呼吸を促進するという副作用がありますので、睡眠時無呼吸症候群の人はその症状も考慮に入れて、医師と相談しながら治療を行う必要があります。
メラトニン
自然な眠りを誘うために、クロナゼパムではなく「メラトニン」が処方される場合や、メラトニンと同じ働きをする経口薬が処方されることもあります。
メラトニンは睡眠ホルモンとも呼ばれる、睡眠には欠かせない脳内物質で、加齢によって分泌量が減少するホルモンです。
近年の研究では、メラトニンの経口摂取がレム睡眠行動障害に有効だとされています。
レム睡眠行動障害は睡眠障害の一つですので、メラトニンを摂取することで睡眠の根本的な質が改善され、治療の底上げにつながるのでしょう。
なお、メラトニンはサプリメントで摂ることもでき、生活習慣の改善で分泌量を増やすことも出来ます。
薬物治療の補助として、自分なりにプラスするのもいいでしょう。
レム睡眠行動障害の対策
レム睡眠行動障害は、本人に自覚がないだけに、本人だけでなく周囲の人間に危害が及ぶことも考えられます。
そのような事が起きないよう、自宅で出来る対策もしておきましょう。
ケガをしないよう寝室を工夫する
まず、レム睡眠中の異常行動によって隣に寝ている人が思わぬケガをすることがあります。
症状が収まるまでは布団は別にした方がいいかもしれません。
また、ベッドの場合は低いものに交換したり、いっそベッドをやめてお布団を敷くようにすればより安心です。
そして、布団の周りになるべく物を置かないようにして、物を投げたり蹴ったり出来ないようにしましょう。
症状の程度によっては起こす
レム睡眠行動障害の症状が出たら、症状によっては起こした方がいい場合もあります。
ですが、激しく暴れているようでは起こす方もケガをしかねませんし、時間によってはあまり大声を出して起こすのも近所迷惑になります。
あらかじめキッチンタイマーなどを用意しておいて、タイマー音で目覚めさせてあげましょう。
リモコンを使って、部屋の照明を一気に明るくするのもいいかもしれません。
ストレスを上手に発散する
レム睡眠行動障害は、強いストレスから発症することもあります。
毎日の生活リズムを見直して、朝は太陽の光を浴びながらウォーキングしたり、寝る前には軽いストレッチをしたりと、身体を動かしてストレスを上手に発散するように努めましょう。
睡眠障害の一つであるレム睡眠行動障害は、質の良い睡眠を手に入れることで症状も緩和されていきます。
朝日を浴びることでメラトニンの分泌量も上がりますので、薬物療法と並行して行えばさらに効果アップです。
良質な睡眠をとる
私たちにとって質の良い睡眠は欠かせません。不眠症や睡眠障害が改善されることで、多くの体調不良が緩和されるのです。
朝は早く起きて夜はなるべく早く寝る、朝日を浴びる、寝る3時間前には夕食を済ませる、寝る1時間前にはテレビやパソコンを消す、22時~26時のどこかで深い眠りに入るなど、良質な眠りのために出来ることから始めましょう。
まとめ
レム睡眠行動障害にはまだ不明の部分が多く、医師にさえもあまり認知されていない病気です。
周囲によく寝ぼける人がいたり、人から「寝ぼけていたよ」と言われたら、とりあえずレム睡眠行動障害の可能性も視野に入れて専門の医師に診察を受けるようにしましょう。