
朝起きられないお子さんに「夜更かしばっかりするから朝起きられないのよ!」と怒っていませんか?
でも、もしかしたらそれは「起立性調節障害」という病気かもしれません。
夜更かしがしたいわけではなく、本当に眠れないという症状になっているのかもしれません。
最近では、中学・高校生の10人に1人が、小学生でも20人に1人が起立性調節障害に苦しんでいるといわれています。
世間一般でも小児科以外の医師の間でも認知度が低い起立性調節障害は、病気だと分かりやすい症状ではないため発見が遅れてしまいがちです。
すると、ただの怠け癖だと誤解されたまま辛い期間を過ごすことになり、不登校になってしまったり、引きこもりになってしまったり、重度の不眠症など深刻な睡眠障害に発展することもあり得ます。
起立性調節障害は、それほどお子さんの将来に大きな影響を与えてしまう危険性がある病気なのです。
では、起立性調節障害とはどのような病気でどのような症状になるのか、なにが原因なのか、どのような対策をすれば治るのかなど、チェック項目も交えてご説明していきます。
この記事の目次
起立性調節障害とは
「起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation)」とは自律神経失調症の一つで、「OD」と略される事もあります。
小学校高学年~中学・高校生、10~16歳頃といった思春期に起きやすい病気です。
もっとも多い症状は「朝起きられない」で、他には「立ちくらみ」「頭痛」「疲れやすい」「夜眠れない」などがあります。
起立性調節障害の仕組み
私たち人間は本来、朝起きたら身体を動かす働きをもつ交感神経が優位になるので日中は活動的に動くことができます。
そして夜になれば、身体をリラックスさせる働きをもつ副交感神経が優位になっていき自然に眠くなります。
しかし自律神経のバランスがとれない起立性調節障害になると、朝目覚めても交感神経が優位にならず血圧も心拍も下がったままです。
したがって通常のように朝起きられず、身体を活発に動かすことができない状態が昼頃まで続きます。
立ったり座ったりといった頭を上げる姿勢をとると脳や全身への血流がうまく行えなくなるため、立ちくらみや頭痛、だるさや失神といった症状が出て起きるのが苦痛になります。
身体を横にしていれば症状は治まるので、どうしても起き上がれずにゴロゴロしてしまいがちです。
そして、これらの症状は午前中だけにみられるもので、午後や夕方になると交感神経が優位になってくるので症状は軽減され、夜になると交感神経はさらに活発化してしまいます。
つまり、体内時計(概日リズム)が数時間ズレてしまっていることが原因で、夜眠れなくなり朝も起きられなくなるのです。
誤解されやすい病気
この、眠りたくても眠れない、起きたくても起きられないという起立性調節障害の存在と症状を知ってもらわなければ、患者さんは「夜更かしばっかりして朝起きられない怠け者」だと思われてしまいます。
親からも学校からも怠け者として怒られたり説教をされ続けるうちに、起立性調節障害の子ども本人も自信をなくして「自分はダメな人間だ」と思い込むようになってしまい、症状がさらに悪化するケースも少なくありません。
実際に、病院での治療が必要だとされている起立性調節障害患者の約50%が不登校になっているという研究結果もあるのです。
この病気を治す早道は、一日でも早い発見と診断、そして周囲の人間の病気に対する知識と理解だといえます。
起立性調節障害の症状
起立性調節障害は体内時計が5時間ほど遅れている、つまりズレている状態が原因となります。
たとえば毎日7時に起きなければならないとすると、朝起きて活発になるはずの交感神経が5時間遅れて優位になるため、お昼の12時頃にやっと活動的になれるということです。
そして夜になっても交感神経は活発なままとなります。
このような生活リズムの乱れから、さまざまな弊害が症状として引き起こされてしまうのです。
朝起きられない
起立性調節障害のもっとも代表的な症状が、朝起きられないということです。
起きたい、起きなければならないという意思はあるのですが、交感神経が優位にならないため血圧も心拍も低いままで、意識がはっきりせずに起き上がることができません。
大音量の目覚まし時計でもお母さんの大声でも、何度起こしても起きられないのは起立性調節障害の典型的な症状といえます。
本人には意識がない場合が多いので、起こされたことさえ覚えていない可能性が大きいです。
この場合には、概日リズム障害という睡眠障害になっていることも考えられます。
立ちくらみや頭痛
起立性調節障害になると、立ったり座ったりの頭を上げている姿勢が苦痛になります。
脳をはじめ全身へ血液をうまく流すことができないので、とくに午前中は立ちくらみや頭痛を起こしやすくなるのです。
まして学校で朝礼などがあれば、長時間立ったままの姿勢でいなければなりません。
ですが、他の生徒がちゃんと並んで話を聞いている中で、自分だけが座り込むわけにもいかず我慢してしまう子どももたくさんいます。
あまり辛抱すると失神したり転倒することもあり、倒れ方が悪ければ大きなケガにもつながります。
立ちくらみを起こしかけたらすぐに座って、絶対に無理をしないようにと前もって教えておきましょう。
また、お風呂から上がった時にも立ちくらみを起こしやすいので注意が必要です。
動悸や息切れをしやすく疲れやすい
起立性調節障害は、自律神経の乱れから血の巡りが悪くなるため、脳や全身に酸素がうまく運ばれなくなります。
そのせいで軽い運動でも疲れるようになり、動悸や息切れをしやすくなって、疲れやすく回復しにくいという症状が現れます。
家庭内ではそれほど心配はないでしょうが、体育の授業などでは他の生徒と比べられて情けない思いをすることがあるかもしれません。
とくに思春期の男子ともなれば、スポーツができる子は人気があります。
逆にちょっと動いただけでハァハァと息切れをしていたら、友達からからかわれたりしてトラウマになってしまい、身体を動かすことを極端に嫌がるようになるケースもあります。
感受性の強い大事な年頃ですので、単に運動不足や体力不足なのか、それとも自律神経の乱れからくるものなのかを早目に見極めて対処してあげてください。
集中力の低下やイライラ感
起立性調節障害のお子さんのほとんどが、午前中は思うように動けず頭も回りません。
授業中も思考力の低下から考えがまとまらずにイライラして、集中力も低下するため授業の内容が頭に入りにくくなってしまいます。
午後になれば交感神経も活発になりだし思考力も回復するのですが、すでに一日の授業の大半は終わっているため勉強の遅れは否めません。
朝頑張って起きて登校しても、朝礼で立ちくらみを起こし、体育の授業では疲れて動悸や息切れがおさまらず、授業の内容にもついていけない、こうなると学校に行くのが嫌になっても仕方がないかもしれませんね。
症状が出ていたら一日も早く見つけてあげて、学校生活を思いっきり楽しめるように改善してあげましょう。
夜眠れずに夜更かしになる
起立性調節障害は夕方から夜になってやっと元気になるため、夜になっても目が冴えてしまい寝つけなくなります。
通常であれば、夜になると心身ともにリラックスできる副交感神経が優位になって眠る準備に入るのですが、起立性調節障害は夜になっても交感神経が優位なままなので眠くならないのです。
布団に入ってもなかなか眠くならない、だんだんイライラしてきて気を紛らわせるためにゲームやスマホをしてしまう、お母さんからすれば「朝起きられなくなるから早く寝なさい!」と言ってしまうのは無理もないですね。
ですが、本人も寝なければならないのは自覚していて、眠るための努力をしていたのかもしれません。
それでも寝つけないのであれば、やはり起立性調節障害を疑ってみてください。
眠りたいのに眠れないというのは想像以上に辛いことです。
根本的に改善しておかないと、寝つきが悪いだけでなく、寝つけないストレスから眠ること自体に恐怖を感じるようになってしまうことがあり、専門医の治療が必要なほどの不眠症や睡眠障害を引き起こすことも充分に考えられるのです。
起立性調節障害の原因
起立性調節障害は自律神経失調症の一つで、身体を動かす働きを持つ「交感神経」と身体を休める働きを持つ「副交感神経」のバランスの乱れが主な原因とされています。
ですが交感神経と副交感神経のバランスがなぜ崩れるのか、その原因ははっきりと解明されてはいません。
ただ、起立性調節障害の遺伝傾向を指摘している専門医もいることから、体質的に交感神経機能が悪い人がなりやすいのではないかと考えられています。
また、自律神経はストレスによって機能が低下することも珍しくありません。
多感な年ごろの子ども達は、学校の成績や人間関係、家庭内での親子関係などでもその年代ならではのストレスを抱えています。
そのストレスが解消されずに蓄積されると、自律神経に悪い影響を及ぼす可能性もでてくるのです。
起立性調節障害の症状チェック
起立性調節障害は、
・立ちくらみやめまいがする
・立ち上がった時に気分が悪くなったり失神する
・入浴時や嫌なことがあった時に気分が悪くなる
・動悸や息切れをしやすい
・朝なかなか起きられず午前中はずっと調子が悪い
・顔色が悪く青白い
・食欲がない
・疲れやすく倦怠感がある
・腹痛や頭痛がおきる
・乗り物酔いをしやすい
・寝つきが悪い
などの症状にいくつ当てはまるかで診断されます。
3つ以上当てはまるようなら、一度専門の医師の診察を受けてみましょう。
起立性調節障害で受診するには
起立性調節障害は10~16歳頃の子どもに多い病気で、小児科医以外の医師には認知度があまり高くない病気です。
起立性調節障害のウェブサイトの運営や本を執筆しているような起立性調節障害のエキスパートはほとんどが小児科医です。
ですから、まず受診するなら近くの小児科医、もしくはかかりつけ医師がいいでしょう。
かかりつけ医師が小児科でなくても、小児起立性調節障害診断の治療ガイドラインを元に診察することができます。
初期の症状であればガイドラインに沿って治療を行ってもらえ、症状の程度によって専門医を紹介してもらうことも可能です。
起立性調節障害の子どもは多かれ少なかれ不安を持っているため、精神的な負担はなるべく軽くする必要があります。
初めて訪れる病院より、少しでも馴染みのある病院の方が気持ちとしては楽でしょう。
診察では、これまでの症状などについて問診が行われるのが一般的です。
スムーズに答えられるよう、あらかじめメモをして行くといいですね。
また、口頭で説明するよりも実際に現われている症状を見てもらう方が診断の参考になります。
無理をしない範囲で、行けるようなら午前中に診察を受けることをお勧めします。
起立性調節障害の対策
症状が軽度であれば、毎日の生活の中で少しずつ改善していくことも不可能ではありません。
まず、充分な水分の摂取です。
体重が30㎏の子どもなら1日に1.5リットル、45㎏以上なら1日2リットルの水分を摂らせましょう。
起立性調節障害になると運動を嫌がりますが、横になってばかりいないよう1日15分程度の散歩をすすめてください。
立ち上がる時はゆっくりと、30秒ほどかけるようにしましょう。
立っている時には、足踏みをしたり両足を交差してクロスにすると血圧の低下防止になります。
歩き始める時にも、脳の血流が低下しないように頭を前屈させてください。
失神する危険性が減少します。
また、暑い場所は血圧が下がりやすいので避けましょう。
体育を見学する時は保健室などの屋内で座って待つようにして、入浴も長時間は厳禁です。
ちなみに、起立性調節障害の子どもは塩辛い食物を好まないという特徴があります。
ですが、循環血漿量を増やして血圧を上げるためには塩分が必要ですので、おかずの塩分を増やすなど、食事の際にやや多めの食塩を摂らせてあげてください。
なお、起立性調節障害の改善には、早寝早起きなどの規則正しい生活リズムが不可欠です。
とはいえ、そもそもそれが出来ないのが起立性調節障害という病気なのです。
治したいという気持ちから焦ったりせず、子どもの症状や性格に合わせて少しずつ改善していきましょう。
まとめ
起立性調節障害は、自律神経の乱れから体内時計がズレて朝起きられなくなり、不眠症のような状態で夜は遅くまで眠れないため夜型生活になってしまいます。
決して本人が好きでやっているわけではないのですが、周囲の人間から見れば「怠け者」「だらしない」「根性なし」と誤解されがちな病気です。
お母さんたちもついイラついてしまうかもしれませんが、本人が一番辛い思いをしていることを忘れないでくださいね。
そして、学校でも理解してもらえるよう、起立性調節障害によって引き起こされる症状を説明しておきましょう。
この病気は大人になるにつれて緩和されることが多く、適切な治療を行えば数年後には高い確率で回復します。
あまり神経質にならずに大らかな気持ちで接してあげましょう。