
「眠れない夜」誰でも一度は経験した事があると思います。
明日も仕事や家事で忙しいのに眠れない、眠ろうとするほど寝付けなくなって、イライラして悲しくなってくる、そんな思いをした事がある方もいらっしゃるのではないですか。
では、眠りたいのに眠れない、そんな夜はどうすればいいのでしょう。
我慢して布団に入ったまま眠れるようになるのを待つのでしょうか、本を読んだり音楽を聴いたりしてリラックス出来るように務めるのでしょうか、それともいっそ起きてしまいますか?
そこで、眠れない時にはあえて眠ろうとしない方がいい、というハーバード式の対処法とその理由をご紹介していきます。
毎日眠れないという不眠症の方や、睡眠に対して何らかの支障が起きる睡眠障害の方も参考にしてみてください。
この記事の目次
布団の中に長時間いても眠くならない理由とは
布団に入ってすぐの時は、ただ「さぁ眠ろう」という意識だけなのでしょう。
ところが数十分たっても眠気が来ないと、少しずつ焦りが生まれてきます。
「明日も仕事があるから眠らなきゃいけないのに」「今眠っておかないと明日がつらいのに」と、焦りは次第に増していき、ついには眠れないこと自体に意識が集中してしまいます。
眠らなければと思えば思うほど意識はハッキリして、イライラが募って脳は興奮状態に陥ってしまうのです。
この状態にまでなってしまうと、眠りにつく事などほぼ不可能と言えます。
それどころか、眠りたいのに眠れない、だからイライラする、イライラすると余計に眠れなくなるという負のスパイラルにはまり込んでしまうでしょう。
つまり、眠れない時に無理して布団に入ったままでは、かえって眠れなくなる原因を強めているだけになってしまうという事です。

眠れないまま布団に長くいても疲れは取れない
「眠れなくても目をつぶっていれば脳も体も回復する」と言われる事もありますが、昼寝のような短時間の休息ならまだしも、夜しっかり眠らなければならない場合は当てはまりません。
まず、眠っている状態と目をつぶっているだけの状態では、脳も身体も明らかに回復力が違います。
深い睡眠に入っている時は副交感神経が優位な状態なので、脳も身体も完全に休息に入っています。
ですが、目をつぶっているだけの状態では交感神経が優位なままです。
交感神経が活発に働いている時は脳にも身体にも緊張感があるため、たとえ何とか眠りに入れたとしても、とても深い眠りとは言えません。
浅い眠りでは脳も身体もしっかり休む事ができず、次の日まで疲れが残ってしまいます。
無理に眠ろうとする夜が続くと不眠症を引き起こす?
眠れなくてもなんとか眠ろうと頑張って、布団の中でイライラしながら長い時間を過ごすような事が続くと、無意識のうちに「今夜もまた眠れないかもしれない」という強迫観念が生まれてます。
夜に布団に入っても、「また眠れなかったらどうしよう」という不安からさらに眠りにつきにくくなります。
そうなると、布団に入ってそれほど時間が経っていなくても「やっぱり眠れない」「またあんなにイライラする時間を過ごさなきゃならないのか」と、布団に入って眠るという行為に対して一種の恐怖感さえ覚えるようになってしまうのです。
そして、それが続くと「私は布団に入っても眠れない」という条件付けを行ってしまい、ますます眠れなくなります。
この状況は、すでに「精神生理性不眠症」という不眠症の一つの症状と言えるでしょう。
本来なら癒しや楽しみであり安心感をもたらすはずの睡眠、私たち人間に必要不可欠な睡眠に対して「眠れない事への恐怖」を感じてしまう前に、眠れない時の対処法をきちんと理解して対策をとっておくべきです。
眠れない事が怖い「精神生理性不眠症」とは
不眠症の中でも特に多く見られる症状が「精神生理性不眠症」です。
この症状は、最初の不眠がきっかけとなって、眠れないこと自体を恐れるあまり余計に眠れなくなってしまうという、不眠の悪循環とも言えるものです。
眠ろうと意識するほど緊張して頭が冴え、眠れないのではという不安感でさらに眠れなくなります。
精神生理性不眠症の具体的な症状として、
・1ヶ月以上の不眠が続いている
・眠ろうとするとあれこれ考えが邪魔して頭が冴える
・睡眠について考えすぎて不安になる
・布団の中よりソファーの方が眠りやすい
・眠りたい時間には眠れず日中に眠くなる、
などが挙げられます。
ただし、精神生理性不眠症の患者さんの場合、実際にはしっかり睡眠がとれているケースも少なくありません。
さらに、本人が体感しているより長い時間眠っている場合もあるのです。
要は眠りにつくまでの葛藤している時間が苦痛なのであって、睡眠自体にはあまり問題がないという事です。
ですから人によっては、寝室の環境や寝具を変えてみたり、川のせせらぎや鳥のさえずりなどリラックス効果のあるBGMをごく小さな音量で流してみたりする事で、驚くほど簡単に改善する事もあります。
そもそも人間は眠るように作られている
私たちには「恒常性維持機構(ホメオスタシス)」という生体システムが備わっています。
この恒常性維持機構には、体温や血圧を一定に保ったり、病原菌やウイルスを排除したり、ケガを治したりといった、私たちの身体を正常な状態に保つ働きがあります。
そして私たちが睡眠をとるのも、この恒常性維持機構の働きによるものです。
私たちに備わっているもう一つの生体システムとして「体内時計」というものがありますが、この体内時計は「夜が来れば眠くなり朝が来れば目覚める」というリズムとしての働きがあるのに対して、恒常性維持機構は「身体の修復のために睡眠へと誘う」という防衛本能のような働きを持っています。
たとえば、風邪をひいた時に一日中眠る、徹夜が続いたら無意識のうちに眠っていた、大きな病気やケガをした時には数日間眠ったままで意識が戻らないなど、身体が本来の正常な状態に戻れるよう、恒常性維持機構の働きが睡眠という形で私たちを守ってくれるのです。

睡眠時間が短い=不眠症とは言い切れない
よく、睡眠時間が短かったり夜中に何度も起きるから不眠症だと考える方がいますが、それだけでは必ずしも不眠症や睡眠障害とは言い切れません。
人によって適切な睡眠時間は違いますし、年齢によっても睡眠の内容は変わってきます。
睡眠時間や内容の影響で、日中に眠気がきたり仕事や家事に支障が起きるようなら不眠症という事もあり得ます。
しかし、翌日も普段と同じようなパフォーマンスが出来ているのであれば、それほど深刻に考える必要はないのです。
なぜなら、脳や身体の疲労が大きければ、恒常性維持機構が普段よりも効率の良い深い睡眠をとれるように働いてくれるからです。
たとえ睡眠時間が短くても、深くて良質な睡眠を得られるのです。
それよりも、睡眠時間が短い事や夜中に何度も起きる事を気にするあまり神経質になる方が問題です。
「昨夜は5時間しか眠れなかったから不眠だ」「夜中に3回もトイレに起きたから不眠だ」という思い込みは、不眠の症状を悪化させて、自ら精神生理性不眠症といった不眠症に追い込んでしまいかねません。
恒常性維持機構の働きを信じて、少々眠れない日が続いても本当に疲れたらイヤでも眠れるから大丈夫、ぐらいの気持ちで大きく構えていましょう。
眠れない時は思い切って寝室から出る
ある程度布団の中にいても眠れないとわかったら、眠る事に固執せずにいっそ寝室から出てしまいましょう。
布団から出てしまえばいいのでは?とも思われるでしょうが、布団から出ても寝室の中にいる事で、脳は「寝室の中での眠れない時間」としてインプットしてしまいます。
そして、もしも寝室で本を読んだりテレビを見たりすれば、余計に眠気が覚めて眠れなくなり、眠れない場所が布団の中から寝室全体へと広がってしまう事になります。
思い切って寝室を出て、眠れない事を意識せずにいつも通りに過ごしましょう。
いずれ眠気が来たときに布団に入って眠ってください。
しかしそれでも眠気が来なければ?その時は、潔く「眠らない」覚悟を決めましょう。たしかに徹夜をすれば翌日はきついでしょうし、睡眠不足の影響が出る事も考えられます。
ですが、翌日をなんとか乗り切る事が出来れば、その日の夜は確実に眠くなります。
普段より少しだけ早めに寝る準備をして、眠気が来たらすぐに眠れる態勢を作っておきましょう。
眠くなってスムーズに眠りに入れれば、それは「良い寝付き」として脳にインプットされます。
良い寝付きの成功例を作る事は、その後の寝付きが改善されるきっかけとなります。
徹夜を何日も続ける事はもちろん健康上にも問題がありますが、眠れないという強迫観念から脱却するには一晩ぐらいの徹夜なら効果的です。
自分の体調を見ながら、不眠の悪循環を断ち切りましょう。
寝る時間よりも起きる時間の方が大事
私たちには体内時計という生体リズムが備わっているため、朝起きた時間によって寝る時間が決まってきます。
ですから、起床時間さえ一定にしておけば眠くなる時間も自然と同じような時間になるのです。
逆に、起きる時間が日によって違う人は眠くなる時間も毎日変わってきます。
昨日は7時に起きて夜の11時に寝ていても、今朝10時に起きていれば昨日と同じ夜の11時に眠くはなりません。
それなのに11時に布団に入って眠ろうと頑張る、それこそ自分で不眠を作り出しているようなものです。
夜何時に寝ようが起きる時間は一定にして、睡眠時間よりも睡眠の質を重視しましょう。
毎日同じ時間に起きていれば、身体には睡眠のリズムが生まれます。
もし睡眠時間が短くても深い睡眠となり、前日の睡眠不足は翌日には取り戻せます。
また、毎日同じような時間にちゃんと眠気が来るようにもなります。
「30分待っても眠れなかったら起き上がる」ハーバード式対処法
2012年10月、アメリカで有名なニューヨークタイムズ誌で「認知行動療法」という、睡眠薬に頼らずに不眠を解消するプログラムが紹介されました。
この不眠解消プログラムは、ハーバード大学のグレッグ・ジェイコブズ博士が大学医学部と共に1万人以上の不眠症患者を対象として行ったもので、その期間は20年間にも及んでいます。
認知行動療法の中心となる考え方は「不眠症の原因がベッドに入る事にあるのならばベッドから離れた方が眠気はやってくる」というもので、「ベッドに入り眠れないまま30分間が過ぎたら起き上がって別の部屋でリラックスする事」という治療法となっています。
CBT-I(不眠症の認知行動療法)は、慢性不眠症の成人にとって最も効果的な第一選択薬であることが証明されています。それは不眠症患者の75〜80%で睡眠を改善し、患者の90%において睡眠薬使用を減少または排除する。CBT-Iと睡眠薬を直接比較した3つの主要研究では、睡眠薬よりもCBT-Iが効果的でした。CBT-Iは副作用がなく、長期的な睡眠改善を維持しており、CBT-Iは不眠症患者のうつ病患者の抗うつ薬単独と比較してうつ病の改善率を倍増させることが示されています。また、これらの合併症の健康問題を有する不眠症患者の痛み、線維筋痛、薬物乱用、およびPTSDを軽減する。
2週間で結果が出る「認知行動療法」の方法
まず、直近の1週間の実質的な平均睡眠時間を計算します。
布団の中にいた時間ではなく、実際に眠っていた時間です。たとえば、布団に入った時間が夜中の12時で眠っていた時間が2時から6時までなら、実質的な睡眠時間は4時間となります。
次に、平均睡眠時間に1時間プラスした時間(予定睡眠時間)だけ布団に入るという方法を1週間続けます。
平均睡眠時間が4時間で起きる時間が6時なら予定睡眠時間は5時間で、6時から逆算すると、布団に入るのは夜中の1時となります。
それまではどんなに眠くても布団に入ってはいけません。
もし布団に入っても30分間眠れなければ、布団から起き上がって眠くなるのを待ちます。
予定睡眠時間がもっと短い場合は、10分間を目安としてください。
そして1週間後、布団に入っていた時間つまり予定睡眠時間の90%以上眠れたなら、布団に入る時間を30分だけ早くします。
平均睡眠時間が4時間の場合は、4時間プラス1時間の5時間が予定睡眠時間となり、5時間の90%である270分(4時間30分)眠れたならば、布団に入る時間を30分早くして夜中の12時30分にするという事です。
予定睡眠時間の90%眠れていない場合は、そのまま夜中の1時就寝を継続します。
これを1週間ごとに繰り返してください。
2週間も経つと、眠れたとか眠れないという事は考えなくなるようです。
最終的に日中の作業に影響が出なくなれば、最適な睡眠時間で質の良い睡眠がとれていると言えます。
一般的な理想の睡眠時間に惑わされる事なく、自分に合った睡眠時間を見つけましょう。

まとめ
眠れない夜に無理に眠ろうとするのは逆効果です。
しかし、眠れない夜にしないためには、寝る前のカフェインやアルコールを控える、寝る寸前までテレビを見ない、布団の中でスマホをいじらない、部屋を暗くするなど、出来る事はたくさんあります。
「不眠症かも」と悩む前に、スムーズに眠りにつける状態が作れているかを今一度見直してみましょう。