
私たちは、怖い夢や不快な夢などを悪夢と呼んでいます。
そして、出来れば悪夢よりも楽しい夢を見たいと願っています。
ですが、なぜか楽しい夢よりも悪夢の方が頭にこびり付いて離れないものです。
ヘタをすれば、悪夢のせいで1日中嫌な気分で過ごさなければならない時もあります。
さらにそんな日が続くと、今夜もまた悪夢を見るのではないかと眠る事自体が怖くなってしまい、睡眠恐怖症という睡眠障害を引き起こしてしまうかもしれません。
1日の疲れを癒すはずの眠りに恐怖を感じてしまっては、脳も身体も回復するところがなくなり疲れ切ってしまいます。
そこで、悪夢を見ずに毎日快眠できるように、人はなぜ悪夢を見るのか、悪夢を断ち切る方法など、悪夢が続く原因と対処法をご紹介していきましょう。
この記事の目次
そもそも夢っていつ見るの?
睡眠とは大きく分けて、身体は休んでいても脳は働いている「レム睡眠」と、脳も身体もしっかり休んでいる「ノンレム睡眠」の2つから成り立っています。
レム睡眠とは、眠っていても脳はある程度覚醒しているため、眼球が上下左右に動くという素早い眼球運動を行っています。
寝言を言ったりうなされたりするのもレム睡眠中で、この浅い眠りの時に夢を見ているのです。
そしてノンレム睡眠とは、レム睡眠ではない睡眠、つまり脳も身体も深い眠りに包まれて休息している状態です。
いわゆる熟睡ですね。
通常、夜の睡眠では、寝入ってから数十分後にもっとも深いノンレム睡眠に入ります。
その後、レム睡眠とノンレム睡眠を交互に繰り返しながら、徐々に目覚めへと向かうわけです。
朝起きた時に、それまで見ていた夢をはっきりと覚えていたら、目覚める寸前はレム睡眠だった事が分かり、その夢はそのレム睡眠時に見たものだという事になります。
なぜ夢を見るの?
夢は、脳が「記憶の整理」を行う時に見ると言われています。
私たちの脳には日々膨大な量の情報が入ってくるので、そのさまざまな記憶を整理している時に見るのが「夢」だと考えられているのです。
ですから、楽しい夢や怖い夢にかかわらず夢は誰でも見ます。
そして、覚えていないだけで実は毎日見ています。
ただ、夢の印象が薄かったり、睡眠の真っただ中に見た夢では覚えている事はまずありません。
しかし悪夢は、強烈な印象や強迫観念から覚えている事が多いようです。
悪夢にうなされて目が覚めた、などの状況に至っては忘れたくても簡単には忘れられないことでしょう。
そのため、怖い夢ばかり見ていると感じている人も少なくないようです。
悪夢を見るのはなぜ?
悪夢を見る原因として、精神的なストレスや不安やトラウマなどを感じているため、通常よりもレム睡眠が多い、つまり眠りが浅いことが考えられます。
浅い眠りのレム睡眠が多いために夢を見ることも多くなり、記憶の整理をしている時に見るのが夢なのですから、脳がストレスや不安やトラウマなどを情報として整理すれば自ずとイヤな夢になってしまいます。
しかも夢を見ている時間が長ければ長いほど、悪夢として意識に残りやすくなります。
たとえば、災害や犯罪に巻き込まれて精神的に大きなショックを受けた場合になる「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」という疾患がありますが、その時の衝撃的な体験がフラッシュバックしてしまい、夜眠れなくなり、悪夢を見やすいと言われています。
脳の中にある怖い記憶やつらい記憶、不快な記憶などは脳を刺激して睡眠の妨げとなり、眠れないことによってさらに悪夢を呼び込んでしまうケースもあるのです。
PTSDの場合は専門の医療機関で治療を受ける必要がありますが、悪夢自体は、多かれ少なかれ誰もが見ています。
問題は、毎日のように悪夢を見ることで、夜眠れなくなる不眠症・悪夢によって夜中に目覚める中途覚醒・眠るのが怖くなる睡眠恐怖症などの睡眠障害や、不安障害やうつ病になってしまう可能性があるのです。
悪夢を見やすくしてしまう原因と対処法は?
睡眠の質が悪いため眠りが浅い
夢はレム睡眠という浅い眠りの時に見るものなので、悪夢を毎日のように見る人はレム睡眠の時間が長くてよく夢を見ている人だと言えます。
レム睡眠の時間が長いという事は、その分深い眠りであるノンレム睡眠の時間が短いという事で、良質な睡眠が取れていないという事になります。
つまり、
睡眠の質を上げて深い眠りであるノンレム睡眠の時間が長くなれば浅い眠りであるレム睡眠の時間も短くなり、結果的には悪夢を見る回数も減って記憶にも残りにくくなるのです。
では、睡眠の質を上げるにはどうすればいいでしょうか。
まず、
朝起きたらすぐに太陽の光を浴びて体内時計をリセットする事です。
それによって、14~16時間後には自然に身体が睡眠へと誘われるようになります。
そして
睡眠時間は7時間を目安にして、朝起きる時間は一定にしましょう。
自分なりの睡眠サイクルが出来れば、夜はしっかり眠れて昼は活動的に動けるようになります。
また、
食事は寝る3時間前には済ませて、寝る30分~1時間前に入浴してください。
眠っている間に身体に負担をかけず、スムーズな入眠が得られます。寝酒を飲む習慣がある人もいるでしょうが、
眠る前のアルコールは厳禁です。
寝つきこそ良いかもしれませんが、トイレなどで夜中に何回も起きる事があったり、喉が渇いて目覚めたりと深い眠りは得られません。
アルコールを分解するために眠っている間も肝臓は働いてしまいますので、身体もしっかり休ませてあげる事が出来なくなります。
質の良い睡眠をとるためには、脳も身体も休息出来るような状態を作る事が大切なのです。
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ストレスが溜まっている
仕事や人間関係、近所付き合いなど、私たちは知らず知らずのうちにストレスを抱え込んでいます。
自分ではちゃんと消化したつもりでも、眠っている間の脳はそのストレスを整理して和らげようと整理していき、その過程で夢という形になって現れる事も多いのです。
また、ストレスがあると心身共にくつろぐ事が出来ず、寝ていても呼吸は浅くなってしまいます。
睡眠時無呼吸症候群もそうですが、浅い呼吸ではなかなか深い眠りは得られないのです。
するとやはりレム睡眠でいる時間が長くなり、悪夢を見やすい状況を作ってしまいます。
ですが、ストレスを解消するのは簡単ではありません。
なぜなら、少々の気分転換では解消出来ないほどのストレスだからこそ悪夢を見るのですから。
一般的に言われる、ウォーキングやジョギング、ジムで運動をするなどもストレス発散には効果的です。
一人カラオケで熱唱するのもスッキリします。
しかし根本的な解決を望むなら、信頼がおける人物に話を聞いてもらうのも一つの方法です。
人に順序立てて話をする事で、それまで気付かなかった自分の本当の気持ちや、解決策が見つかる事もあるのです。
家族でもパートナーでも親友でも、場合によっては行政の相談室でも、心の内を聞いてもらえる人を見つけましょう。
一人で抱え込まずに吐き出してしまえば、心はずっと軽くなって安心して眠りにつく事が出来ますよ。
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眠る環境が整っていない
眠っている時に、暑い・寒い・苦しい・重い・動けないなど、身体的な抑圧からも悪夢を見る場合があります。
たとえば、寝室が蒸し暑くて寝苦しかったり、風邪をひいて熱があったり、身体にピッタリした寝間着で身動きが取りにくかったり、枕が高すぎて呼吸がしづらかったりと、身体が受けている苦境がそのまま夢に反映して、悪夢を見るきっかけになってしまう事もあるのです。
寝室の温度や湿度は、エアコンや冷暖房器具で調節しましょう。
冬場なら湯たんぽなどもいいですね。
寝間着は、身体を締め付けないゆったりとした、吸水性と速乾性のあるパジャマにしてみてください。
枕の高さも重要です。
首や肩が凝らないような、自分の身体に合った枕を使いましょう。
横向き寝をする人は、抱き枕などを使用するのもオススメです。
身体の負担が軽減される上に、枕を抱く事で安心感が得られます。
幸せホルモンである「オキシトシン」も分泌されるので、深い眠りと共に幸せな夢が見られそうです。
お気に入りのアロマを焚いたり、川のせせらぎのBGMやスローテンポのBGMを小さな音で流すのも効果的です。
寝室が「眠らなければならない場所」ではなく「心身共にリラックスできる場所」になるよう、今一度眠る環境を見直してみましょう。
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薬による副作用
悪夢は、薬剤から引き起こされる事も少なくありません。
たとえば、降圧薬・パーキンソン病の治療薬・認知症治療薬・抗うつ薬・抗ヒスタミン薬などで、中には取扱説明書の副作用欄に「悪夢」と明記されているものもあります。
これらの薬は、神経伝達物質の働きに影響を及ぼすという共通点がありますので、現在使用している薬があれば副作用欄を確認してみてください。
もし服用している薬による副作用ならば、薬を変えたり症状の根本的な治療をする事で、悪夢から脱却できるかもしれません。
また、病院で処方された治療薬を飲むようになってから悪夢を見るという人は、すぐに処方してくれた医師に相談しましょう。
悪夢障害と診断されたら
稀な例ではありますが、悪夢が続いて睡眠障害を起こす状態は「悪夢障害」と診断されます。
あなたがもしも、PTSDやうつ病などの精神疾患を患っておらず、また現在日常的に服用している薬もなく、それなのに悪夢を見る日が続いてつらい毎日を送っていたら、それは悪夢障害かもしれません。
悪夢障害は、生活が不規則で深い眠りがとれていない、つまりノンレム睡眠よりレム睡眠の割合が多くなるような睡眠をとっている人に多く、遺伝的な要因もあると考えられています。
悪夢障害の場合、そのつらさと苦しみから「自殺」という文字が頭をよぎったり、実際に自殺を実行する危険性が高くなるとの報告もあります。
眠りたい、でも眠ると怖い夢を見てしまうから眠りたくない、でも眠りたい、でも怖い、神経も身体も眠りを欲しているのに眠れないというのは想像以上につらいものだと思われます。
この悪循環から抜け出すには、とにかく専門の医療機関に相談する事です。
神経科や精神科、睡眠障害を専門としているクリニックもいいでしょう。
最悪の結果になる前に、適切な治療を受けてくださいね。
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悪夢に対する治療法
悪夢を見る患者さんへの治療は、薬とそれ以外のものに分けられます。
薬以外の治療法
薬を使わない悪夢に対する治療法として、「認知行動療法」「EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)」「IRT(心像イメージ・リハーサル療法)」などがあります。
認知行動療法では、悪夢を引き起こす原因となるストレスへの対処法や、悪夢を見ても過剰に反応しない方法を学びます。
EMDRとは、患者さんに悪夢の原因となっている出来事の事を考えてもらいながら、治癒者が動かす指を目だけで追いかけてもらう治療法です。
IRTでは、悪夢の筋書きを変えるように、目覚めている時に自分が見たいと思う夢をイメージするトレーニングを繰り返します。
悪夢を消す薬
アメリカ睡眠医学会による悪夢の治療ガイドでは「プラゾシン」「レボメプロマジン」「ナビロン」の3つを悪夢障害に対する治療薬として認めています。
ただ、ナビロンは日本ではまだ未承認なので使用する事は出来ません。
プラゾシンは科学的根拠がもっとも高い薬で、日本では「ミニプレス」などの名前で販売されており、高血圧や前立腺肥大症の治療に使われています。
アメリカでは、プラゾシンの働きで悪夢が抑えられグッスリ眠れると、戦争からの帰還兵の治療などに使用しています。
しかし、日本ではプラゾシンを悪夢の治療薬としては認められていません。
悪夢を改善するためにどうしても使いたい場合は、主治医とよく相談してみてください。
レボメプロマジンは、統合失調症やうつ病の治療に使われています。
日本では「ヒルナミン」「レボトミン」などの名前で販売されていますが、この薬も悪夢の治療薬としては認められていないため健康保険が使えません。
ですが、レボメプロマジンには強力な鎮静作用がありますので、一般的な睡眠導入剤などを飲んでも眠れないという重度の不眠症の人や、ストレスや不安などから睡眠障害になってしまっている人などには、充分に試してみる価値はありそうです。
とはいえ副作用の事もありますので、必ず主治医に相談して指示を仰ぐことが必要です。
まとめ
悪夢を見た時の対処法に「夢で良かったと思えばいい」というものがあります。
たしかに悪夢を毎日のように続けて見るのはかなりつらい事ですが、実際に起こった事ではないという安堵感も大事にしましょう。
「悪い夢ばっかり見るのは何かの前兆だろうか」とか「なんとか悪夢を見ないで済むようにしなければ」など思い詰めるのはかえって良くありません。
悪夢によって不眠症になったり、睡眠障害を引き起こしたりなどの健康被害がないのであれば、あまり気にしないというのも一つの解決方法です。
そして逆に、思い切って一度専門家に相談してみるというのも安心材料になるでしょう。
悪夢を見ない日々を送ることができるよう、ストレスレスの生活、良質な睡眠を心掛けてみてくださいね。