
ナルコレプシーとは過眠症の一つで、睡眠障害の一種です。
睡眠障害というと眠れなくなる不眠症のイメージがありますが、ナルコレプシーは逆に自分の意思に関係なく眠ってしまう病気なのです。
ではこのナルコプレシーにはどんな原因と症状があり、どのような対策をすればいいのでしょうか。
この記事の目次
「眠り病」ともいわれる「ナルコレプシー」とは?
「日中に眠くなる病気」としてもっとも有名なナルコレプシーは、過眠症の代表格ともいわれています。
ナルコレプシーが最初に報告されたのは1880年で、フランスの医師ジュリノーという人が「ナルコプレシー」という名前で初めて記録しました。
ですが17世紀にもイギリスで同様の症状が記録されていますので、もっと以前からあったのではないかと考えられています。
そして実は、2000年前後まではまったく原因がわからない謎の睡眠障害だったのです。
「眠り病」や「居眠り病」ともいわれる「ナルコレプシー」の言葉の語源は、ギリシャ語の「ナルコ/narco(麻痺・しびれ)」、「レプシー/lepsy(発作)」という意味からきています。
ナルコレプシーは10代の思春期から20代ぐらいまでが男女に関係なく発症しやすく、14~16歳がピークだといわれています。
世界的にみると日本人が発症する確率は高く、世界では1000~2000人に1人というのに対して、日本では600人に1人の割合で発症しているとの報告があります。
ナルコレプシーの4つの症状とは?
ナルコレプシーの代表的な4つの症状は以下のとおりです。
1,睡眠発作
ナルコレプシー特有の症状です。
どんなに緊張を強いられる大事な場面でも、突然逆らえないほどの眠気に襲われて、ところかまわず発作のように眠ってしまう症状です。
一度にとる睡眠は5~30分と短いので、単なる居眠りだと思われてしまいがちです。
少し眠ると起きたときにはスッキリしているのですが数時間するとまた強烈な眠気がくる、それを一日に何度も繰り返すのがナルコレプシーの特徴です。
夜にちゃんと眠れていても症状はあらわれるのですが、中には夜に眠れない不眠症と併発するケースもあり「寝不足だから居眠りしちゃったんだ」と本人でさえ症状に気づかないことがあります。
そのためまわりからは「しょっちゅう居眠りしている」と思われて信頼をなくすこともあり、本人も「しっかりしなければ」と考えてしまうのです。
2,情動性脱力発作(カタプレキシー)
喜ぶ、大笑いする、興奮するなど、喜怒哀楽の強い感情が動いた瞬間に全身が脱力して姿勢が保てなくなる症状です。
その間の意識はちゃんとあるのですが、短くて数秒、長いと数分間は脱力したままということもあります。
情動性脱力発作の程度は、手や足に力が入りにくくなる、首に力が入らずガクッと前に垂れ下がる、立っていられずに崩れるように倒れ込んでしまう、と人によってまちまちです。
また、ナルコレプシーにかかった人が必ずしも情動性脱力発作を起こすわけではありません。
ですが80%以上の人に情動性脱力発作の症状がみられます。
この症状がみられた場合は、ナルコレプシーである可能性も考えてみましょう。
3,金縛り
これは睡眠麻痺といわれるもので、寝入りばなやレム睡眠中に目覚めてしまい、体が固まって動かなくなる症状です。
通常の睡眠なら眠りが深くなった90~120分後にくるはずのレム睡眠が、ナルコレプシーになっている人は寝ついてすぐに訪れます。
ノンレム睡眠のときは脳が、レム睡眠のときは体が休んでいるので、体が動かせないレム睡眠時に意識があると金縛りの状態になってしまうのです。
寝入ってすぐの眠りが浅いときにレム睡眠が訪れると、意識はまだ残っているのに体だけが動かせずに焦ってしまい、同時に現実と勘違いするほどリアルな夢を見ることも多いようです。
この睡眠麻痺は数分で自然となくなるのですが、その数分間はナルコレプシーの人にとってたいへん苦痛な時間となります。
4,悪夢
金縛りとともに訪れるのが入眠時の幻覚、つまり悪夢です。
入眠時の幻覚は、寝入った直後に起こる睡眠麻痺と同時に起きることが多く、リアルで恐ろしいものがほとんどです。
たとえば怪しい人影や気配を感じたり、なにか怖いものに襲われるなど、かなり鮮明で現実味があるようです。
そのうえレム睡眠中には思考する機能が一時的に低下しているので、覚醒している時のような判断力も失われて、夢なのか現実なのか見分けがつかない状況で恐怖の時間を過ごすことになります。
「睡眠麻痺」、睡眠麻痺とともに起こる「入眠時幻覚」、そして「情動性脱力発作」、これらをまとめて「レム睡眠関連症状」とも呼ばれています。
ナルコレプシーとその他の過眠症との違い
ナルコレプシーは過眠症の一つではありますが、その他の過眠症とは症状が異なります。
反復性過眠症
1年のうちに数回、過眠の状態が続く症状です。この過眠状態は「傾眠期(けいみんき)」といわれ、その期間は短ければ3日間で長くても20日間ほどです。
傾眠期のときは、長いと1日に15時間以上眠り込んでしまうこともあります。
それは夜でも昼でも関係なく、症状としてあらわれるのです。
傾眠期の期間以外の生活は、反復性過眠症ではない人とまったく変わりありません。
10代に発症することが多く、30歳を過ぎる頃には自然に治っていることが多いようです。
特発性過眠症
ナルコレプシーのように突発的な眠気や全身の脱力がくるわけではなく、毎日昼間に1時間以上の睡魔に襲われる症状です。
夜はしっかり眠れているのに、寝起きは頭がボーッとしてすっきりせず、昼間になるとまた絶えず眠気を感じるという状態です。
発症は10代~20代前半の若い人に多くみられます。
ちなみに、よく耳にする突発性過眠症(とっぱつせいかみんしょう)は間違いで、正しくは特発性過眠症(とくはつせいかみんしょう)といいます。
ナルコレプシーになる原因は?
オレキシンの分泌不足
ナルコレプシーになっている人の約90%は、脳内物質「オレキシン」の分泌障害だといわれています。
神経ペプチドの一種であるオレキシンは、食欲を調整する物質でもあり、睡眠と覚醒のバランスを調整する物質でもあります。
オレキシン不足によって睡眠と覚醒のバランスを維持することが難しくなり、起きているときは眠気に襲われ、眠っているときは目覚めやすい状態になり、睡眠発作やレム睡眠関連症状があらわれると考えられています。
根本的な原因はいまだ不明
オレキシンが不足することでナルコレプシーの症状が引き起こされる、とここまでは解明されているのですが、肝心の「オレキシンが不足する原因」まではまだ明らかにされていません。
遺伝に関係しているといわれていますが、同じ遺伝子をもつ双子がどちらも発症する確率は30%ほどですので、遺伝だけが原因だと言い切るには弱いものがあります。
また、遺伝に加えて「後天的な要素」が組み合わされることで発症するともいわれますが、その後天的な要素としてどんな事が考えられるかも不明のままです。
脳炎などの後遺症として起こることもあるようですが、詳しいことはまだわかっていません。
ただ、東京大学の徳永勝士教授のチームが、「睡眠制御に関連した遺伝子と睡眠覚醒周期に関連した遺伝子の間でDNAの変異が起きている可能性が極めて高い」とアメリカの科学誌に発表しました。
この遺伝子の発見によってナルコレプシーの治療に期待がもてることになるでしょう。
ナルコレプシーの診断
ナルコレプシーは、眠気の原因を精査するため、入院して睡眠検査を行います。
その間に、症状や経過も診断することになります。
検査は、睡眠の状態と睡眠に関連した生体活動を評価する「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)」と、日中の眠気の程度やレム睡眠のあらわれ方を評価する「反復睡眠潜時検査(MSLT)」がセットで行われます。
「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)」とは、体にさまざまな状態を測るセンサーを装着して一晩眠る検査です。
「反復睡眠潜時検査(MSLT)」とはナルコレプシーに欠かせない検査で、2時間ごとに眠気の程度やレム睡眠のあらわれ方を調べるものです。
ちなみに2008年の4月から保険適用となりました。
そして「髄液オレキシン検査」で髄液中のオレキシン濃度も測定します。
また、必須ではありませんが、遺伝的な関連を判定する「ヒト白血球抗原(HLA)検査」を行うこともあります。
ナルコレプシーの症状にはどんな対策が効果的?
睡眠の質を良くしよう
ナルコレプシーなどの過眠症の対策には、生活リズムの改善と薬の服用、この2つが大事です。
過眠症の場合は夜の睡眠の質が良くないことが多く、昼間に眠気がきて夜にはまた熟睡できなくなるといった悪循環に陥ってしまうからです。
症状が比較的軽い場合は生活リズムを正すだけで良くなることもあり、薬の治療効果もあがってきます。
まずは早起きをして太陽の光をしっかり浴びましょう。
夜は、眠りやすい環境の場所で早めに布団に入りましょう。
そして昼間に眠気があるようなら、あらかじめ昼寝をする時間を確保するような対策をしてください。
薬の服用
眠りが浅く夜中に目が覚めやすいときには、睡眠誘導剤や作用時間が短い睡眠薬を処方されます。
情動性脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚などの「レム睡眠関連症状」に対しては、レム睡眠を減らす作用がある三環系抗うつ剤が有効です。
昼間の激しい眠気や睡眠発作を軽減するためには、中枢神経刺激薬が処方されます。
ただし、どの薬を服用するにしても、必ず専門の医師の指示を仰いで用法と用量を厳守しましょう。
ナルコレプシーは何科で受診すればいい?
ナルコレプシーの症状で悩む人には、自分がナルコレプシーだと自覚していない人も多くいます。
そのため、とりあえず内科で相談となることも多いのですが、過眠症の場合は通常の血液検査やX線検査などでは判明しづらいのです。
医師によっては「眠れないよりはよく眠れる方がいい」と判断され、異常なしと診断されることも少なくありません。
ナルコレプシーの症状によく似たことが起きているときは、睡眠障害を扱っている精神科や心療内科などで診断を受けましょう。
かかりつけの病院から睡眠外来のある病院を紹介してもらってもいいです。
睡眠潜時反復検査(MSLT)が行える病院は多くはありませんが、日本睡眠学会のホームページには地域の専門病院が紹介されていますのでそちらも利用しましょう。
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ナルコレプシーの治療には周囲の理解と協力が必要不可欠
ナルコレプシーという病気自体、あまり知られてはいません。
その症状も突発的な居眠りや情動脱力発作で、時間としては短いものの状況によってはまわりから誤解を受けやすいものです。
授業中、会議中、デートの最中など、見ようによれば「やる気がない」「怠けている」「こんな時に寝るなんて」とも受け取られます。
ナルコレプシーにかかっている人の数は全国で20万人といわれていますが、実際に診断を受けて治療を行なっているのは数千人という少なさです。
それはナルコレプシーという名前と症状に知名度がないためで、ナルコレプシーという病気が社会に知られていないだけでなく、本人さえも自分がナルコレプシーの患者だと自覚していないケースが多いからです。
自覚がないため、改善できないまま苦しい思いをしつづけることになってしまいます。
ナルコレプシーのような症状があらわれたら、すぐに専門医の診察を受けて治療を始めましょう。
周囲の人たちにも病気であることを理解してもらい協力してもらうことが大切なのです。
患者さん自身によって運営されている「なるこ会」
ナルコレプシーの症状には「ところかまわず居眠りをする」というものがあります。
自分の意思に関係なく強制的に起こる居眠りによって、罪悪感や劣等感をもってしまう患者さんがとても多いのです。
ときには学校や職場や友人関係、そして家庭内でさえも亀裂が生じることがあります。
そのような患者さん、また患者さんのご家族が偏見のない社会生活が送れるようにと活動している団体があります。
それは1967年に創立された、ナルコレプシーの患者さん自身によって運営されている、世界で最も古い患者会「特定非営利活動法人、日本ナルコレプシー協会(なるこ会)」です。
患者の会があるほど、日本ではナルコレプシーに苦しんでいる方が多いということなのです。
この「なるこ会」は、ナルコレプシーはもちろん、過眠症全般の理解と治療を支援するコミュニティーにもなっています。
まとめ
ナルコレプシーは過眠症という睡眠障害の一種で、オレキシンの分泌不足が要因だといわれています。
オレキシン不足の原因はまだ不明ではありますが、睡眠の質が悪いことも症状を悪化させる一因となっています。
対策としては、生活リズムを立て直して質の良い睡眠を得ること、専門医の診察を受けて薬を処方してもらうことです。
また、周囲の理解や協力もナルコレプシー症状の改善には不可欠です。
ナルコレプシーに対する知識を深めて積極的に対策を施しましょう。