
腸内環境を整えるのが大事だということは知っている方も多いようですが、腸内環境の良し悪しが睡眠に影響を与えるという事実はあまり知られていないのではないでしょうか。
では、一見あまり関係がないような「腸内環境」と「睡眠」の密接な関わり、腸内環境を改善することでどのように睡眠の質が上がるかなどを紹介していきましょう。
この記事の目次
腸が「第2の脳」といわれる理由
腸が「第2の脳」といわれるのには理由があります。
まず、腸は独自のネットワークができているため、脳からの指令がなくとも働くことができる唯一の臓器であるということです。
そして腸と脳は、お互いに影響を与えあう関係にあります。
たとえば脳がストレスを強く感じると、下痢になったり便秘になったりと腸の働きも悪くなることがありますよね。
それは、脳のストレスが腸にも伝わってしまうからです。
人間の体が心身ともにリラックスしている状態のときは、副交感神経が優位となって胃腸の働きが活発になり、腸内環境もいい状態になります。
しかし、脳にストレスや疲れがたまってくると交感神経が優位になってしまいます。
すると腸内環境のバランスが崩れ、精神を安定させる働きをもつ「セロトニン」が作れなくなり、セロトニンが少なくなることで精神状態は不安定になります。
胃腸も本来の働きができなくなり、下痢や便秘を引き起こしてしまうのです。
そして腸が不調になれば、逆に脳に悪影響を与えることもあるようです。
たとえば、腸の中に病原菌が発生したら脳に不安感が生まれるという報告があります。
また、脳が感じる「食欲」には、腸などから出されるホルモンが関係しているとも言われています。
腸には病原体が体内に入るのを阻止する役目や、腸内にある免疫細胞から免疫力をつくる役目などもありますので、人間の体において腸がいかに重要な役割を果たしているかがわかりますね。
腸内環境と腸内フローラ
腸内環境とはおもに、小腸からつながる盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸・直腸からなる「大腸」の内部の環境のことです。
大腸は、食物の消化や吸収だけでなく、糞便を作りだすという大事な役割をもっています。
つまり、大腸がちゃんと働くことができないと便秘や下痢になるのです。
大腸の内部には100兆個以上もの腸内細菌が住んでいると言われています。
腸内細菌は腸の壁が見えないほどたくさん生息しているため、その様子から「腸内フローラ(花畑)」と呼ばれています。
腸内細菌には大きく分けて、体の健康を維持するために働くビフィズス菌や乳酸菌などの「善玉菌」、腐敗物質を作り出し体にとって悪い働きをする大腸菌などの「悪玉菌」、腸内の環境によってどちらにも働く「日和見菌」の3種類があります。
そして、善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%という割合いが良い状態だとされています。
善玉菌のほうが悪玉菌より多ければ、日和見菌は善玉菌の味方になって同じ働きをしてくれるからです。
善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスは健康を保つためにとても重要なことで、「腸内環境の乱れ」とはこのバランスが崩れてしまった状態のことだと言えます。
腸内フローラと睡眠ホルモン「メラトニン」
人の眠りには、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」が必要です。
メラトニンには催眠作用があり、多く分泌されることで眠気を感じさせる働きをします。
またメラトニンには抗酸化力や免疫力を高める働きなどもあるため、別名「若返りホルモン」とも呼ばれています。
そのメラトニンの原料となるのはタンパク質です。
肉や魚介類や卵などに含まれるタンパク質は腸で消化・吸収されるのですが、タンパク質を分解するにはビタミン群が必要になります。
そしてタンパク質を分解するのに必要なビタミン群を生成しているのが腸内細菌なのです。
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メラトニンの原料となる必須アミノ酸「トリプトファン」
「トリプトファン」は体内では作り出すことが出来ない必須アミノ酸の一つです。
そのため食事や栄養補助食品で摂取する必要があります。
トリプトファンは、肉や魚介類や豆類などのタンパク質に多く含まれており、睡眠ホルモンと若返りホルモンである「メラトニン」、心のバランスを整える作用がある「セロトニン」、脂肪分解作用で肥満の改善が期待できる「ナイアシン」などの原材料となります。
トリプトファンが体内で生成できないとはいえ、多くの食品に含まれていますので極端に不足する事はそれほどありません。
ですが、タンパク質を分解してトリプトファンにするには腸内細菌の力が必要なので、腸内環境が悪化しているとトリプトファンが効率よく摂れずに不足する可能性もでてきます。
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トリプトファンから「セロトニン」に
トリプトファンは「5-HTP」という物質に生合成されて脳の中に運ばれます。
脳内に入った5-HTPは、強い抗ストレス作用を持つ神経伝達物質「セロトニン」へと変化します。
セロトニンには心のバランスを整える作用があり、メラトニンの分泌を促す役割ももっています。
トリプトファンが不足するとセロトニンも不足することになり、メラトニンの分泌も充分に行えなくなるのです。
また、セロトニンが不足すると心の安定が保ちにくくなり、うつ病や不眠症を引き起こすとも言われています。
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セロトニンから「メラトニン」に
脳の中にある松果体という場所で、セロトニンは睡眠ホルモン「メラトニン」に変換されます。
メラトニンは朝の太陽光などを浴びることで生成され、およそ14~15時間後に分泌されます。メラトニンが分泌されることによって体温や脈拍や血圧が下がり、自然に眠気がくるのです。
つまりメラトニンには、「朝おきて太陽の光を浴び、夜になれば自然に眠くなる」という人間本来の生活リズムを作る働きがあるということです。
逆にいえばメラトニンの分泌が減ると体内時計に狂いが生じて、不眠症などの睡眠障害を引き起こす原因となってしまいます。
腸内環境と睡眠のメカニズム
トリプトファンからメラトニンが作られるまでの流れは、腸の中に入ったタンパク質が腸内細菌の力を借りて「トリプトファン」になり、トリプトファンは「5-HTP」という物質に生合成されて脳の中に運ばれ、5-HTPは脳内で「セロトニン」へと変化し、セロトニンは脳内の松果体で「メラトニン」に変換されるということです。
つまり、
良質な睡眠にはメラトニンの正常な分泌が不可欠
⬇
メラトニンの分泌にはセロトニンが必要
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セロトニンが作られるにはトリプトファンが欠かせない
⬇
トリプトファンを効率よく摂取するには腸内細菌の力を借りる必要がある
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腸内フローラが充分な働きをするには腸内環境が整っていなければならない
となります。
このように、睡眠ホルモンであるメラトニンの原料を作り出す過程で、腸内環境の状態は大きく関係してくるのです。
また睡眠に限らず、どのような栄養素を取り入れようと、腸内環境が乱れた状態では吸収率が著しく減ってしまいます。
まずは腸内環境を整えたうえで、肉や魚、卵や豆類などの良質なタンパク質をとり、メラトニンの分泌量を増やしていきましょう。
腸内環境を改善するには
腸の中には大きく分けて3種類の腸内細菌が住んでいますが、腸内環境が良い状態は、善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%というバランスだと言われています。
つまりこの状態に戻せば良いのです。
善玉菌を増やして日和見菌を味方につければ、栄養素をもれなく吸収できるようになります。
そのためには、エサとなって善玉菌の繁殖を助けてくれる、食物繊維・オリゴ糖・グルコン酸を摂取することです。
ゴボウなどの根菜類、海藻類、バナナ、ニンニク、玉ねぎなどに多く含まれています。
また、善玉菌の働きを助けてくれる菌、乳酸菌・ビフィズス菌・納豆菌なども併せて食べればより効果的です。
納豆、味噌、ヨーグルト、キムチ、ぬか漬けなど手軽にとれるものが多いですね。
もっと手軽に腸内環境を改善したい人には、必要な栄養素が入っているスムージーなどもありますので、試してみるのも良いのではないでしょうか。
善玉菌と睡眠誘導物質「ムラミルペプチド」
善玉菌は、ビタミンB群の生成や免疫細胞の活性化や有害物質の分解など人が健康でいられるよう助ける働きをしていますが、近年では、自然な眠りへと導く睡眠誘導物質「ムラミルペプチド」の生成にも深く関与していると注目されています。
そして、睡眠の質が悪く不眠症などの睡眠障害に悩んでいる人の多くが便秘であることも報告されています。
つまり、睡眠誘導物質の生成に関係する善玉菌の働きが弱まっていることも、便秘の人の睡眠の質が悪くなる要因の一つではないかと考えられているのです。
睡眠誘導物質「ムラミルペプチド」とは
人間の体内に有害な細菌が侵入すると、マクロファージという免疫細胞が有害な細菌を攻撃します。
このとき「ムラミルペプチド」と呼ばれる催眠物質が作られ、ムラミルペプチドは発熱と眠気を誘発して体を休息に向かわせ、細菌感染からの回復に努めます。
ムラミルペプチドとは、微生物のまわりにある細胞壁から作られるペプチドで、腸内細菌の細胞壁からも同じように作られます。
腸内細菌はマクロファージから攻撃されるわけではないので発熱はしませんが、細菌感染しなくても睡眠誘導の効果は発揮してくれます。
腸内環境を整えると不眠症も改善される?
腸と睡眠には「自律神経」という共通点があります。
不眠症になる最大の原因の一つが自律神経の乱れなのはよく知られています。
そして腸には多くの自律神経が集中しています。
ストレスなどで腸内環境が悪くなると、自律神経のバランスにも悪影響を及ぼすことになります。
また、腸内環境が悪化するとトリプトファンが分解されなくなり、ストレスに対抗する幸せホルモン「セロトニン」も不足してきます。
するとさらに自律神経はバランスを崩してしまい、不眠の症状に拍車をかけることにもなりかねないのです。
ですから、腸内環境の改善に効果のあるものを食べて腸内細菌の働きを活性化させれば、自律神経の乱れも改善されて不眠の症状も緩和されます。
睡眠不足が腸内環境に与える悪影響
腸内環境の乱れは睡眠に影響を及ぼしますが、睡眠も腸内環境に影響を与えることがあります。
人が眠っているとき、脳や体はリラックスした状態です。
リラックス状態では副交感神経が優位になるので、眠っているあいだ胃や腸などの消化器官の働きは活性化されます。
食べ物の消化や吸収をすると同時に、腸の中にある細胞の修復や再生も活発に行われます。
活性化された消化器官の働きは腸内細菌の働きも活発にして、腸内の環境を整えていきます。
しかし充分な睡眠がとれないと、体はリラックス状態になる時間が少なくなり、副交感神経の働きが弱くなってしまいます。
それでは胃や腸も活発に働くことができません。
食べ物の消化も吸収もうまくいかず、消化も吸収もされなかった食べ物のカスが大量に発生し、悪玉菌が食べカスをエサにして増殖します。
悪玉菌が増えると腸が腐敗してさまざまな有毒物質を発生させます。
また、日和見菌が悪玉菌の味方となるため相対的に善玉菌は減っていきます。
善玉菌が減ると、当然のごとく腸内環境は悪化します。
睡眠の質を上げるには腸内環境を整えよう
睡眠と腸内環境はお互いに影響を与えあっています。
腸内環境が乱れて腸内細菌が減ると、良質な睡眠のために必要なメラトニンを作ることが難しくなり、睡眠不足の原因となります。
また、不眠症や睡眠障害で充分な睡眠が得られなかったら、副交感神経の働きが弱くなって胃や腸も充分に働くことができず、腸内環境の乱れにつながります。
その結果、やはり睡眠不足の原因となります。
どちらかが悪くなるともう一方も悪くなる、悪循環に陥ってしまうことになります。
つまり、どちらかが改善されればもう片方も改善されるという好循環もあり得るのです。
まずは腸内環境のために善玉菌が喜ぶものを食べることから始めましょう。
腸が元気になればトリプトファンを取り込むことができます。
そして朝の光を浴びてメラトニンの分泌を増やしてください。
睡眠と覚醒の生体リズムが整えられて睡眠の質が上がります。
まとめ
腸内環境の乱れが様々な重大疾患を引き起こす要因となり得ることが、近年の研究結果から明らかになってきています。
そして、腸内環境を整えるには質の良い睡眠をとることが大事で、質の良い睡眠には正常な腸内環境が必要なのです。
睡眠と腸内環境には密接な関係があるので、どちらか片方だけを改善すれば良いと言うわけではありません。
腸内環境を整えるのに有効なものを摂取して、質の良い睡眠のために規則正しい生活を心がける、それが心身の健康のためにとても大事なことなのです。