
睡眠不足になると、風邪をひいたり疲れやすかったりと、なにかと体調を崩しがちになってしまいます。
というのも、睡眠不足が免疫力低下を引き起こし、菌から身体を守れなくなってしまうからなのです。
では、そもそも免疫とはどういうものかという簡単な説明を交えて、免疫力を高めるための睡眠のコツと、注意するべき点をご紹介していきます。
この記事の目次
そもそも免疫ってどんなもの?
風邪をひいたときは鼻水が出たり咳やくしゃみが止まらなかったりしますが、これが免疫反応の一つです。
鼻や口から入ってきたウイルスを、鼻水やくしゃみをすることで身体の外に追い出そうとしているのです。
つまり免疫とは、身体の外から侵入してきたウイルスや細菌と戦って排除したり、がん細胞などの異物を体内から消してくれる、私たちの身体を守るために備わっている防御システムのようなものです。
「自然治癒力」または「抵抗力」といわれることもあります。
免疫力の仕組みとは
免疫力とは自分の身体をウイルスや細菌などから守る仕組みのことで、中心となって働くのが血液の中にある白血球です。
白血球にはいろいろ種類がありますが、免疫作用があるのは「好中球(顆粒球)」「リンパ球」「単球」の3つです。
「好中球」は、病気のもとになるウイルスや細菌などが入ってくると真っ先にやってきて攻撃をしかけ、食べて消化してくれます。
「リンパ球」にはNK細胞やB細胞やT細胞などがあり、好中球だけでは排除しきれなかった異物を破壊してくれる働きがあります。
「単球」は「マクロファージ」という細胞が有名ですが、別名「掃除屋」とも呼ばれており、リンパ球が破壊したがん細胞も食べてくれるのです。
また、「体内に異物侵入」という情報をいち早く伝達するのも、このマクロファージの役目です。
風邪をひいたり体調を崩したとき、免疫細胞が増えて病気の元である病原菌を排除します。
白血球が免疫物質を作り出して数が増えることで眠くなりますが、眠ることが身体を守ることにつながっているのです。
睡眠中にしか作り出せない「免疫物質」
白血球が免疫物質を作り出すのは睡眠中です。
免疫機能を作り出す要は白血球であるといえるのですが、その白血球が作られる場所は背骨にある骨髄だといわれています。
そして白血球は立っている状態では作られません。
骨髄を横にした状態、つまりゆっくり寝ている「骨休め」の状態でなければ白血球が骨髄から生成されることはないのです。
なぜなら、白血球に限らず血液を作り出すには多量のエネルギーが必要で、立ったままの姿勢では重力がかかりエネルギーを消費してしまい、血液の生成にまでエネルギーを回せないからです。
その結果、エネルギーを使わない睡眠中に血液を作ることになり、そのための充分な睡眠が必要となるのです。
これだけでも、免疫力を高めるために睡眠がいかに大切かがわかりますね。
ちなみに、白血球の活性化には乳酸菌を摂取するのがいいといわれています。
乳酸菌を摂取することでリンパ球の1つである免疫細胞「NK細胞」が活性化したという研究結果もあり、乳酸菌をエサにして増える善玉菌によって白血球が活性化することも認められています。
腸内の善玉菌のほとんどは乳酸菌ですので、乳酸菌を摂ることが白血球を活性化させる近道だといえます。
免疫力と自律神経と睡眠
心身を健康に保つために、内臓や血管などの働きをコントロールして体内の環境を整える神経を「自律神経」といいます。
自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つからなっており、「交感神経」は緊張しているときや気分が高揚しているときなど主に昼間の活動時に働き、「副交感神経」はリラックスしているときなど主に夜間に働くといわれています。
免疫は副交感神経が優位に働いているときに作られます。
副交感神経がもっとも強まっているのは睡眠中ですので、眠っているときに免疫物質が生成されているということになるのです。
しかし、寝ているのに起きているときと同じように交感神経が優位に働いている場合、つまり眠りの質が悪い場合は睡眠時間に関係なく睡眠不足となり、免疫物質が思うように生成されなくなって免疫力が低下します。
また免疫機能の働きも抑制されて、身体の中の弱っている部分も修復されなくなってしまいます。
そしてもちろん、睡眠時間が短ければそれだけ作り出される免疫物質も少なくなるということになります。
成長ホルモンが細胞を活性化させる
「成長ホルモン」とはその名の通り、子どもの成長に欠かせないホルモンです。
ですが、大人にとっても欠かすことのできない、とても大事なホルモンです。免疫力を上げる働きがあり、寝ている間に脳内から大量に分泌されます。
古くなった細胞を再生したり、ケガや内蔵のダメージを修復したり、一日の疲労を回復したりと、身体中のすべてのダメージを回復する働きもある、ありがたいホルモンなのです。
女性には、ターンオーバーを活発にしてお肌を若く保つための「若返りホルモン」として有名なのではないでしょうか。
毎日しっかり眠ってこのホルモンがたっぷり分泌されればシワやシミになりにくくなって、アンチエイジングの強い味方になってくれますね。
細胞を活性化させる成長ホルモンは、22時から夜中の2時までに分泌のピークを迎えます。
とはいえ、毎日22時に寝るのはなかなか難しいかもしれませんので、なるべく24時までに寝るように心がけましょう。
免疫力とサイトカイン
寝ている間に、成長ホルモンと一緒に大量に分泌されるものに「サイトカイン」があります。
サイトカインとは、免疫力などが正常に働くための調整役を果たすタンパク質の総称です。同時に、免疫細胞同士の情報伝達を行い、脳を深い眠りにつかせる働きももっています。
たとえば体内に病原菌が入ってきたとき、免疫細胞は病原菌を退治するために動きます。すると免疫細胞から情報を受け取ったサイトカインは脳に「眠くなりなさい」と指示します。
そして脳は深い眠りへと誘われることになり、脳も身体もしっかり休んでいる状態になります。
そのあいだに、免疫細胞を増やして免疫力を上げ、病原菌と戦って排除するだけの力を蓄えて病気を治すのです。
メラトニンの働き
質の良い睡眠のためには睡眠ホルモンである「メラトニン」が多く分泌されることが大事ですが、このメラトニンには抗酸化作用があり免疫力を高める働きがあります。
体内のウイルスや細菌を排除してくれる免疫細胞に「T細胞」というのがありますが、このT細胞はウイルスと直接戦う、免疫細胞の中でもとても重要な役割を担っています。
そしてT細胞は胸腺といわれる部分から作られます。
メラトニンは胸腺の働きを活性化して、ウイルスと戦って撃退してくれるT細胞の生成を促すのです。
免疫力を高める良い睡眠とは
人が夜眠っているとき、眠りの中でもっとも重要視するべき時間帯はいつでしょうか。
それは寝ついてから3時間です。
睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠が交互にやってきますが、それが2回繰り返されるあいだに、細胞を活性化させる成長ホルモンも、免疫細胞同士の情報伝達を行うサイトカインも、血液中に大量に分泌されるためです。
この3時間で、身体の健康が維持できるよう修復や回復に努めているのです。
ただ、こうした修復作業も眠りが浅いとうまくいきません。
深い眠りについていてこそ順調に行われるのです。
要するに、ただ眠ってさえいればいいというわけではなく、この3時間でしっかり熟睡できることが重要だといえます。
質の良い睡眠とは、睡眠時間の長さではなく、途中で目を覚ますことなく深く眠れることなのです。
質の良い睡眠が免疫力を高める理由
「睡眠に勝る名医なし」という言葉があるようですが、たしかに質の良い睡眠をとれている人は免疫力が高く健康な人が多いようです。
人が熟睡しているとき、身体中の血管が広がって血流がよくなります。
免疫細胞は血液の中で生成されますので、血液の巡りがよくなると効率よく生成されて全身に行き渡ることができるのです。
また、熟睡しているときには、免疫力を低下させるストレスホルモンである「コルチゾール」の分泌も抑えられることがわかっています。
しっかり眠れてさえいればどんな病気でも治るということはありませんが、質の良い睡眠が免疫力を高めて、病気にかかるリスクを減らしてくれているのは間違いないでしょう。
免疫力を高めるためには何時に寝ればいい?
免疫の働きは22時以降に最も高くなりますので、できることなら22時に就寝するのが望ましいですね。
成長ホルモンも、サイトカインも、メラトニンも、22時から深夜2時の間に分泌のピークとなります。
24時までに寝ると免疫細胞の「リンパ球」も増加して免疫力が上がります。
22時から深夜2時の間はシンデレラタイムともいわれ、なるべくなら布団の中にいるほうがいいのですが、難しいようならせめて24時までには眠るように努めましょう。
そして、寝ついてからの3時間がもっとも重要な時間帯なので、布団に入ったらすぐ眠りにつけるのが理想的です。
最適な睡眠時間は?
最適な睡眠時間には個人差が大きく関わってきます。
1日3~4時間の睡眠でも健康だという「ショートスリーパー(短眠者)」もいるにはいますが希です。
5時間以下の睡眠時間では交感神経が優位になりすぎて免疫力が下がり、9時間以上だと副交感神経が優位になりすぎてやはり免疫力が下がるそうです。
6時間~8時間の睡眠時間が、自律神経のバランスもとれて免疫力が上がるといわれています。
そして早寝早起きを心がけることが大事です。睡眠時間は最適でも、昼夜逆転のような生活リズムでは元も子もありません。
免疫力を高める睡眠 5つのコツと注意点
1,寝る1時間前に入浴をすませる
免疫力を高める睡眠を得るためには質の良い睡眠をとることが重要で、良質の睡眠をとるためには、寝る前に体温を上げておくことが大事です。
体温が上がると放熱されるので、深部体温が下がって眠りにつきやすくなります。
38~40℃ぐらいのぬるめのお湯に浸かりましょう。
ぬるめのお湯にゆっくり入ると身体がリラックスして副交感神経が優位に立ちやすくなり、1時間前にあがっているようにすれば寝る頃にはちょうど体温も下がり寝つきやすい状態になっています。
熱いお湯では逆に目が覚めてしまうので注意してください。
2,寝る30分前に首元をあたためる
首元は暖かさを感じやすい場所なので、そこを温めることで全身が温まり血行もよくなります。
手や足までしっかり温まったら放熱がはじまり、深部体温が下がってきてスムーズに眠りにつけるようになります。
3,食事は寝る3時間前には終えておき、アルコールも控えめにする
食べたものが消化されるまでにはおよそ3時間かかるといいます。
消化しきれていない状態で寝てしまうと、胃や腸などの消化器官は睡眠中でも活動しなければならなくなり、リラックス状態とはいえず深い眠りに入ることができなくなります。
寝る時間から逆算して、3時間前には食事が終わっているようにしましょう。
また、アルコールも肝臓などの内蔵を活動させることになるため、質の良い睡眠の妨げとなってしまいます。
寝る前の過度なアルコールは控えてください。
4,いびきをかかないよう工夫する
いびきをかくと酸素を充分に取り入れることができなくなり、脳が酸欠状態になってしまいます。
すると副交感神経が十分に働かず、睡眠も浅くなり免疫力も低下します。
横向きで寝るようにしたり、鼻呼吸を意識したり、枕の高さを低くしたりして改善しましょう。
5,パソコンやスマートフォンなどは寝る1時間前まで
パソコンやスマートフォンの画面は交感神経を刺激します。
眠りにつく1時間前にはパソコンもスマートフォンもテレビも消して、副交感神経が優位になりやすい状態にしましょう。
また、メラトニンは光を浴びている状態では分泌されません。
部屋の電気も消して、暗い静かな眠りやすい環境を作ってください。
まとめ
免疫力を高めるためには「質の良い睡眠」が不可欠です。
そして、質の良い睡眠のためには適度な運動と栄養バランスのとれた食事が欠かせません。
つまり、どれか1つだけを重要視しても免疫力アップにはつながらないのです。
まずは早寝早起きで生活リズムを整え、食事や運動にも気を配りましょう。
そうすれば自然に睡眠の質も良くなり、病気になりにくい免疫力の髙い身体になっていることでしょう。