
「眠らなくてはならないのに、眠ることができない」「毎日、夜中になるまで寝付くことができない」と言う不眠の悩みをお持ちの方も多いことでしょう。
夜眠るべき時間に布団に入ってもなかなか眠ることができない・・・。こんな症状に心当たりがあると言う方は、もしかしたら「睡眠相後退症候群」かもしれません。
「睡眠相後退症候群」は、どんな睡眠障害なのでしょうか?
その原因と対策について詳しく見ていくことにしましょう。
この記事の目次
「睡眠相後退症候群」とは?
「睡眠相後退症候群」は文字通り睡眠時間が後退してしまう睡眠障害です。
具体的に言うと、入眠時間が深夜0時を過ぎてしまい、それ以降、または明け方にならないと眠気がおこらないという症状を伴う不眠症です。
睡眠時間が後退してしまうということは、朝起きる時間も遅くなってしまいますので、日中の行動にも影響を及ぼし始めます。
ただ眠る時間が遅くなっているだけとは言えない深刻な睡眠障害なのです。
きちんと睡眠をとれている方は、入眠時間、起床時間がほぼ定まっていますが、「睡眠相後退症候群」の睡眠障害がある場合、入眠時間が徐々に後退していきます。
そのため、初期症状は単に朝起きられないというものですが、そのまま「睡眠相後退症候群」を放置し続けると昼間起きている時間にも眠気や倦怠感などが襲ってきます。
他人からは、「さぼっている」「やる気がない」などと受け取られるケースも多く、精神的にも負担が大きくなり、症状が進むにつれ、登校拒否や出社拒否、うつなどの精神疾患にまで発展してしまうため、決して無視できない睡眠障害なのです。
まずは、「睡眠相後退症候群」の症状について詳しく見ていくことにしましょう。
「睡眠相後退症候群」の症状とは?
夜遅くまで眠ることができないことは、それほど稀なことではありません。
人は悩みや心配事があるとき、布団に入っても、考え続けてしまうため、なかなか眠れないことがあります。
しかし、「睡眠相後退症候群」はこうした精神状態が全くないにもかかわらず、入眠時間が後退してしまいます。
日中いつもと同じように過ごし、何も問題がなかった日でも、入眠するはずの時間に眠ることができず夜中まで目が冴えた状態が続いてしまいます。
たまたま眠ることができないだけなら問題はありませんが、こうした症状が何日も続く場合「睡眠相後退症候群」が疑われます。
この「睡眠相後退症候群」の症状は朝早く起きることで治るのではと考える方も多いと思いますが、例え症状を回復させようと早起きを試みても、短期的に症状が回復するだけで、すぐに元の状態に戻ってしまいます。
目覚ましをいくつもセットして早起きを心がけても、回復する睡眠障害ではありませんので、適切な対処が必要になってきます。
しっかり「睡眠相後退症候群」を克服していくことが大切です。
一般的な不眠症との違い
「睡眠相後退症候群」は、一般的な不眠症と大きく異なるところがあります。
それは夜遅くまで眠ることができず、朝起きる時間が遅くなってしまっても、十分な睡眠時間をとることができる点です。
学校や会社へ行く生活は無理になりますが、昼頃または夕方になれば自然と目覚めることができます。
単に睡眠時間のリズムが後ろにずれてしまう症状と考えると分かりやすいかと思います。
「睡眠相後退症候群」は幼少期や思春期に発症することが多く、年を重ねるに連れ症状が治まるケースも少なくありません。
ですが、人によってはそのまま睡眠時間が固定されてしまうこともあり、この睡眠サイクルが大人になるまで続きます。
以下のような症状が2つ以上ある方は、「睡眠相後退症候群」を疑ってみるといいでしょう。
・夜遅くまで眠ることができない
・朝起きるのが困難だ
・日中眠気を感じる
・集中力が低下している
・疲労・倦怠感がある
・頭痛がある
・36.0より体温が低い
・ロングスリーパー
「睡眠相後退症候群」にとてもよく似た症状を発症する病気に、うつ病などの精神疾患がありますが、精神疾患でないにもかかわらず、上記のような症状がある場合には「睡眠相後退症候群」かもしれません。
「睡眠相後退症候群」の原因は何?
「睡眠相後退症候群」の原因は一つではありません。
複数考えられます。
ここからは「睡眠相後退症候群」の原因について見ていくことにしましょう。
遺伝
「睡眠相後退症候群」は遺伝する傾向が強いと言われています。
時計遺伝子と呼ばれているper3に異常があると、「睡眠相後退症候群」を発症することが分かっています。
647番目のバリン残基がグリシン残基に置き換わっている場合、そのことが原因となり「睡眠相後退症候群」になってしまうようです。
そのため家族に昼夜逆転の生活をしている方がいる場合、この時計遺伝子も受け継いでいることが考えられるため、発症する可能性が高まります。
発達障害
ADHDのような生まれつきの発達障害があるケースも、「睡眠相後退症候群」を引き起こしやすいと言われています。
ADHDは乳幼児の頃、睡眠時間が短いなどの症状を訴えることも多く、睡眠リズムが乱れる傾向が強いため、「睡眠相後退症候群」になるリスクが高く、一つの要因として考えられています。
体内時計の周期が長い
体内時計の周期は人によって違います。
一般的に人は25時間の体内時計を持っているとされていますが、これには本当に個人差があります。
25時間よりも短い人もいれば、25時間より長いサイクルを持っている人いて、人それぞれ一日の長さが異なっています。
体内時計の違いによる誤差は人によってまちまちですが、毎日決まった時間に起きることで調整することができ、体内時計を正常に機能させています。
しかし、体内時計の長さが人より極端に長い場合、この調整が上手くいかず、「睡眠相後退症候群」の原因になってしまうことがあります。
夜型の生活
長い間、夜型の生活を送っていることも「睡眠相後退症候群」を発症する原因と言われています。
長期間、体内時計のリズムが狂うことで、元の正常な状態に戻すことができなくなり、「睡眠相後退症候群」の症状となって表れます。
夜勤務する仕事をしていたり、受験勉強などで夜遅くまで毎日起きている生活をしていると体内時計がそのサイクルを固定してしまうため、簡単に元の状態に戻すことができず、「睡眠相後退症候群」を発症してしまうのです。
体温の日内変動の乱れ
人は寝ている時体温が一番低い状態です。
起きたばかりは体温がまだ低く、行動を始めると体温も徐々に上昇を始めるのですが、この体温の差は一日で約1度と言われています。
しかし、夜体温が十分に下降しなかったり、昼間の体温がしっかり上昇しないと、眠るべき時間に眠気を感じることなく、昼間と夜の差別化ができなくなってしまいます。
そのため、睡眠時間も大きく変わってしまうのです。
この体温の変動の乱れは「睡眠相後退症候群」の原因になります。
疲労やストレス
体内時計が乱れると、疲労を感じたり、イライラなどの精神的ダメージを作り出してしまいますが、反対に心身に蓄積された疲労やストレスが体内時計を乱してしまうこともあります。
疲労やストレスがたまった状態は、心身ともに健康な状態ではないため、本来正常に戻ろうとする体内時計のリズムを回復させる力が十分に発揮できず、徐々に睡眠時間を後退させてしまうのです。
「睡眠相後退症候群」の対処法
「睡眠相後退症候群」には様々な原因があることが分かっていただけたと思います。
ですが、「睡眠相後退症候群」が原因で起こる社会生活への影響はどうにかして食い止めたいものです。
持って生まれた遺伝子や発達障害などが原因の場合には改善も難しいですが、それ以外が原因の場合、その原因を取り除くことによって「睡眠相後退症候群」の症状を改善させていくこと、予防していくことは可能です。
どんな対処法が「睡眠相後退症候群」の予防と回復に効果的なのでしょうか?
朝と就寝前に分けて見ていくことにしましょう。
朝できる改善法
朝光を浴びる
「睡眠相後退症候群」の改善に光はとても重要です。
最近では夜間でも窓から街頭などの光が入ってくるため、遮光カーテンを閉めて眠ると言う方が多くなってきていますが、朝起きてもカーテンを開けずに生活していると、体内時計はどうしても乱れてしまいます。
体内時計は毎日、朝日を浴びることでリセットされ正常に機能しますので、朝はカーテンを開け、全身で光を浴びるよう心がけましょう。
また、光を浴びる時間を定めることも大切です。
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毎朝7時に起きるのであれば、同じ時間に光をたっぷり浴びるようにしましょう。
光目覚ましなどを利用するのも効果的です。


昼は明るい部屋で過ごす
仕事が休みの日ぐらい昼まで寝ていたいという方も多いと思いますが、やはりこれも体内時計のサイクルを乱してしまうことになりますので、やめた方がいいでしょう。
寝だめしても日ごろの睡眠不足を解消することはできません。
それよりも毎日同じ時間に起き、昼間明るい部屋で過ごすことで体内時計を正常に戻していくことが「睡眠相後退症候群」の改善には効果的です。
朝は8時までに起床し、日中は明るい部屋で過ごすよう心がけましょう。
朝食をしっかり食べる
朝食は目覚めに欠かすことのできないアイテムの一つです。
食べ物を噛むことで脳のスイッチをオンにすることができ、スッキリ目を覚ますことができます。
ただでさえ寝ていたいのに、忙しい時間帯である朝に食事をとることは難しいと思いますが、顎をしっかり使うことのできる朝食をとるよう心がけましょう。
また、朝に限らず昼や夜の食事の時間を一定にすることも大切です。
内臓にも体内時計は存在しており、内側から体内時計の乱れを正常化できます。
就寝前の改善法
入眠時間を一定に保つ
「睡眠相後退症候群」の症状があり、眠れない場合、どうせ布団に入っても無駄だからと言って起きていることもあると思いますが、やはり就寝時間は守ることが大切です。
自分で、この時間には寝たいと思える時間の30分から1時間前には布団に入るようにしましょう。
眠れなくてもかまいません。
徐々に眠りを覚えるためにも就寝時間になったら横になることで「睡眠相後退症候群」の改善につながります。
就寝前の行動に気を付ける
就寝前が唯一の自由時間と言うこともあり、「睡眠相後退症候群」の症状があると、どうせ眠ることができないからとついつい色々なことをしようと思ってしまいますが、就寝予定時間の2~3時間前の過ごし方には気を付けましょう。
過度な運動、パソコンなどの電子機器の使用、食事、入浴などは極力それより前の時間に済ませておくといいでしょう。
反対に、リラックスできるヨガやストレッチをしたり、体の温まるハーブティーなどを飲んだり、部屋の明かりを暗くしておくと、スムーズな入眠ができるようになります。
入眠の邪魔になる行動はできるだけ排除してみるといいでしょう。
入眠環境を整える
眠るための環境を整えておくことも、入眠をスムーズにするためには大切なことです。
寝具の硬さや、枕の高さが合っていないと気持ちよく眠りにつくことができませんよね。
また、室温にも注意が必要です。夏なのに暑過ぎたり、冬なのに寒すぎる部屋では快適な睡眠をとることができません。
布団に入る30分前にはエアコンのスイッチを入れ、眠るために適した温度に調節しておくといいでしょう。
深夜12時までに眠る努力を
「睡眠相後退症候群」の場合、眠ることができないため、どうしても深夜1時、2時まで起きてしまうということもあると思いますが、できるだけ0時までには眠りにつくよう努力をしてみましょう。
いつもより早く布団に入るようにすると、普段より早い時間に眠ることができるようになる場合もありますし、自分に合ったリラックス法、疲労回復法を実践することで、0時を目指してみるのも良いでしょう。
早く就寝することを心がけ、あきらめずに長期間努力し続けることが「睡眠相後退症候群」克服のポイントです。
まとめ
「睡眠相後退症候群」は入眠時間や起床時間が遅くなるという睡眠障害ですが、眠り続ければ睡眠をとることができるため、どうしても軽視されがちです。
しかし、登校拒否、出社拒否が引き金となり、精神疾患を引き起こすこともあり、大変危険な睡眠障害の一つです。
できるだけ早いうちに「睡眠相後退症候群」対策を実践し、回復を試みましょう。
また、「睡眠相後退症候群」が進行してしまっている場合、例え改善法を実践したところで、自分では改善できないことも少なくありません。
そんな重度な「睡眠相後退症候群」には、きちんとした治療が必要になります。
単なる睡眠の後退と放置するのではなく、睡眠専門の医療機関を必ず受診するようにしましょう。