
シプロヘプタジン塩酸塩水和物は第一世代の抗ヒスタミン剤で、1961年に蕁麻疹(じんましん)やアレルギー症状を抑える薬「ペリアクチン」として発売されました。
シプロヘプタジンには抗ヒスタミン作用だけでなく抗セロトニン作用もあるため、セロトニンが関わる病気に対しても治療効果を示します。
では、このシプロヘプタジンにはどのような効果があって、どのような副作用があるのか、そしてシプロヘプタジンの睡眠効果とはどのようなものなのかを見ていきましょう。
この記事の目次
シプロヘプタジン(ペリアクチン)の特徴
シプロヘプタジンは、皮膚に発疹が出来たり痒みが起きる「蕁麻疹(じんましん)」や、春先に多くの人が悩まされる「花粉症」などアレルギーの症状を抑えるために使用される、第一世代の「抗ヒスタミン剤(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)」という化合物の一つです。
アレルギーには、免疫の働き過ぎが関わっています。
免疫には病原菌に対抗する大事な役割があるのですが、過剰に反応し過ぎても病気になってしまうのです。
免疫の過剰反応は、くしゃみや鼻水などアレルギーに繋がります。
それは、アレルギーを引き起こす物質である「ヒスタミン」が放出されて、「H1受容体」という受け皿と結合する事で引き起こされます。
シプロヘプタジン(ペリアクチン)はヒスタミンより先にH1受容体と結合して、ヒスタミンの働きを妨害してアレルギー症状を抑えます。
同時に、セロトニンの働きを阻害する抗セロトニン作用もありますので、心のバランスが乱れからくる精神疾患にも効果があると考えられています。
シプロヘプタジン(ペリアクチン)の効果
アレルギー症状
湿疹や皮膚炎などの皮膚疾患、枯草熱(花粉症やアレルギー性鼻炎)、じんましん、風邪によるくしゃみや鼻水や咳など、じんましんと併発しやすい血管運動性浮腫などに効果を発揮します。
シプロヘプタジン(ペリアクチン)は第一世代と言われる古くからある抗ヒスタミン剤で、素早く効いて高い効果はあるのですが、脂に溶ける性質を持っているので脳に移行しやすく副作用も少なくありません。
その後、脂に溶けにくく脳に移行しにくい第二世代の抗ヒスタミン剤が作られました。
現在では、ヒスタミンにのみ作用して副作用の少ない第二世代から使うのが一般的となっています。
食欲増進効果があると考えられていた
現在ではこの作用の有用性は否定されていますが、1971年に追加の効能として「食欲不振・体重減少の改善」が承認されました。
その後、再評価した結果、1996年に有用性を示す根拠がないとして「食欲不振・体重減少の改善」の効能は削除されました。
ですが25年間もの間、食欲不振や体重の減少を改善する効果があると期待されて小児科で使用され、同じく内科や耳鼻科などでも鼻水やくしゃみが改善されてさらに食欲も出るならと使われ続けていたのです。
それがいきなり効果無しと言われてもすぐには状況は変わらず、現在でも処方されやすくなっているお薬だと言えます。
睡眠効果
シプロヘプタジン(ペリアクチン)は第一世代の抗ヒスタミン剤で、脳内へ移行しやすいため鎮静作用があります。
たとえば湿疹や痒みがひどくて眠れない時などに使用すると、痒みと眠気の両方に作用して眠りにつく事が出来ます。
病院によっては、子どもの風邪やアレルギー性鼻炎、じんましん、花粉症などによる鼻水やくしゃみの軽減などに、シロップ剤として調剤することもあります。
また、飛行機など長旅の時、子どもがグズって周囲に迷惑をかけないようにと眠くなる薬を処方してもらうお母さんもいらっしゃいます。
電車やバスなら子どもが泣いたりグズっても降りてしまえばいいのですが、飛行機のように狭い機内ですぐ隣に他人が居る場合、その場を立ち去る事も出来ずに、お母さんはただただ周囲に申し訳なく思い、とても神経をすり減らしてしまいます。
そこで、機内に居る時だけでも静かに眠っていて欲しいと考えるのですね。
このケースでは、眠くなる薬というよりも風邪薬や鼻炎などの薬のいわゆる副作用によるものですが、外国ではそれほど珍しくない事だそうです。
ただし、シプロヘプタジン(ペリアクチン)の抗ヒスタミン作用や抗セロトニン作用は強力ですので、必ずかかりつけの病院に相談して、自分の子どもに合った処方をしてもらうようにしましょう。
セロトニン症候群の改善
脳内の神経伝達物質の一つである「セロトニン」には精神を安定させる働きがあり、分泌量が少なくなって脳内のセロトニンの濃度が薄くなると、心のバランスが崩れて「うつ病」などの精神疾患を引き起こすと言われています。
しかし、あまり過剰に分泌されてしまっても「セロトニン症候群」となってしまい、初期段階で対処せずに放っておくと命にかわるほど重症化する危険があります。
セロトニン症候群は、主にうつ病の治療薬となる抗うつ剤を間違った方法や量で摂取した事が原因となり、精神疾患で複数の薬を併用している人に起こりやすいと言われています。
症状としては、強い不安感や苛立ち、興奮状態や混乱状態になりやすくなり、身体の震えや筋肉の硬直、発熱や発汗や下痢といった身体症状も現れるようになりますので早期発見を心掛けてください。
ちなみに、セロトニン症候群が重症になるとシプロヘプタジンなどの抗セロトニン作用がある薬を投与します。
シプロヘプタジン(ペリアクチン)の副作用
シプロヘプタジン(ペリアクチン)は第一世代の抗ヒスタミン剤であり、脂に溶けやすく脳内に移行しやすいため素早く効いて高い効果が期待できますが、その反面副作用が多めの薬でもあります。
では、その副作用とはどんなものでしょうか。
抗ヒスタミン作用による強烈な眠気やめまい
シプロヘプタジン(ペリアクチン)は、ヒスタミンがH1受容体と結合しないよう自らが先に結合する事でアレルギー症状などを抑制しますが、そのためにH1受容体の中枢抑制作用である眠気やめまいやふらつきなどを引き起こしてしまいます。
抗ヒスタミン剤にはどれも眠気の副作用が生じるリスクがあり、とくにシプロヘプタジン(ペリアクチン)は他の抗ヒスタミン剤より強いと言われています。
とはいえ個人差もあり、子どもの場合は逆に興奮してしまうケースもあるようです。
しかし安全のためには、車の運転や危険が伴う作業をする前に服用しないでください。
抗コリン作用による口の渇き
本来ヒスタミンが結合するはずのH1受容体は、アセチルコリンが結合するアセチルコリン受容体の構造とよく似ています。
そのため、シプロヘプタジン(ペリアクチン)は誤ってアセチルコリン受容体と結合してしまう事もあります。
すると、アセチルコリンは結合するべき受容体と結合出来なくなります。
つまりシプロヘプタジン(ペリアクチン)は、アセチルコリンの働きも抑制している事になるのです。
抗コリン作用には、鼻水の分泌が減る代わりに唾液を作り出す機能も抑えられるために起こる口の渇きや吐き気などがあります。
唾液の分泌が少なくなると食事の際に食べ物を飲み込みづらくなるので、お年寄りに使用する場合は「嚥下(えんげ)障害」などが起きないよう注意する事が大事です。
また、抗コリン作用は喘息の症状を悪化させて発作を起こしやすくしますので、喘息持ちの人はくれぐれも注意してください。
抗コリン作用による便秘や排尿障害
抗コリン作用は、胃や腸の働きも低下させて消化器官の動きも抑制してしまいます。
そのため、便秘がちになったり尿が出にくい排尿障害になったりする場合もあるのです。
もともと排尿障害を持っている人や前立腺肥大症に罹っている人は、症状が悪化する危険性も充分に考えられますので、シプロヘプタジン(ペリアクチン)は使用しないでください。
視力障害
抗コリン作用は、瞳孔の調節機能にも影響を与えて眼圧を上昇させる場合があります。
そのため、眼圧が上がる事で症状が悪化する緑内障の人はシプロヘプタジン(ペリアクチン)などの抗ヒスタミン剤を使用出来ないと言われています。
ですが、緑内障には「閉塞型」と「解放型」の2種類があり、抗ヒスタミン剤が使えないのは閉塞型の方です。
閉塞型は急激に眼圧が上昇する事で、強い目のかすみ・目の奥の痛み・吐き気など「急性緑内障発作」を引き起こしてしまうためです。
しかし、緑内障と診断されている人のほとんどが開放型であり、眼圧が上がったとしても一時的なもので発作にまでは至らないとされています。
とはいえ、たとえ一時的であっても急激な眼圧の上昇は望ましいものではありません。
緑内障の患者さんがシプロヘプタジン(ペリアクチン)を服用を希望する際には、かかりつけの眼科医とよく相談した上で決めましょう。
ごく稀に見られる重大な副作用
痙攣(けいれん)の誘発
シプロヘプタジン(ペリアクチン)に限らず、第一世代の抗ヒスタミン剤は中枢神経に働きかけるため、異常に興奮して痙攣を引き起こすケースがあります。
持病として「てんかん」を持っている人、過去に痙攣を起こした事がある人、子どもなどはとくに痙攣が起きやすいと言われています。
この薬を作ったアメリカでは、副作用の観点から子どもには使われていません。
しかしやむを得ずシプロヘプタジン(ペリアクチン)を使用する場合には、必ずかかりつけの医師に相談して処方してもらい、用法や用量、使用期限はしっかり守ってください。
無顆粒球症(むかりゅうきゅうしょう)
無顆粒球症とは、血液中にある白血球のうち、細菌やカビといった微生物に攻撃をする免疫担当細胞の「好中球(顆粒球)」が減少してしまう状態の事です。
細菌を殺す働きのある好中球が減ってしまうと、それまでのように免疫システムが作動しなくなって抵抗力が弱くなり、感染症にかかると重症化する恐れもあり、最悪の場合は命の危険さえあると言われています。
しかも、無顆粒球症になる原因の多くが、他の治療のために服用している薬剤なのです。
何らかの薬を服用し始めてから「突然の高熱」「寒気」「のどの痛み」などの症状がみられた場合には、早急に薬を処方してもらった医師や薬剤師に連絡しましょう。
錯乱や幻覚
シプロヘプタジン(ペリアクチン)には強い抗ヒスタミン作用と抗セロトニン作用があります。
とくにシプロヘプタジン(ペリアクチン)の抗セロトニン作用は、非常に強烈な作用を有する幻覚剤として有名なLSDにも匹敵すると言われています。
そのため、人によっては錯乱状態になったり幻覚を見たりするケースも稀にあるそうです。
もっとも、病院で医師の処方してもらった薬であれば心配はありません。
ただ、個人差が左右する部分もありますので、服用によって幻覚などを見るようになったらすぐに相談してください。
また、服用する回数や時間、量などは必ず守るようにしましょう。
シプロヘプタジン(ペリアクチン)を使用してはいけない人
第一世代の抗ヒスタミン剤には抗コリン作用があるため、もともと持っている疾患によっては使用出来ない場合があります。
たとえば、抗コリン作用によって眼圧が上昇しやすくなるので「緑内障」の人は症状が悪化する可能性があります。
「開放型」の緑内障であれば医師に相談して、「閉塞型」の緑内障なら決して使用しないでください。
また、消化器官の働きを低下させる可能性もあるので、腸管に閉塞や狭窄がある「狭窄性胃潰瘍」や「幽門十二指腸閉塞」の患者さんも使用出来ません。
尿道を収縮される働きもあるので、「前立腺肥大症」など尿道に閉塞性疾患がある人も症状が悪化してしまいます。
そして、シプロヘプタジン(ペリアクチン)を服用すると呼吸が浅くなる事がありますので、生後6ヶ月未満の乳児への使用は控えてください。
生後6ヶ月以上であっても、ダウン症などに罹っている子どもなどは呼吸がしづらくなるため要注意です。
さらに、中枢神経を興奮させる作用もあります。
新生児はもとより、低出生体重児や衰弱している人、お年寄りなど抵抗力が弱い人は、幻覚や痙攣などの精神症状を引き起こす危険性があるので使用しないでください。
まとめ
シプロヘプタジン(ペリアクチン)は、素早く効いて高い効果が得られる、アレルギー症状を緩和してくれる抗ヒスタミン剤です。
しかし、強い効果を持っている反面、多くの副作用も併せ持っています。使い方によっては毒にもなってしまうのが薬ですので、シプロヘプタジン(ペリアクチン)を使用する際には、決められた用法と用量を守って正しく服用しましょう。
また、危険を伴う作業の前には服用しないなど、副作用の事も考慮して飲んでください。