
「クラシック音楽を聴くと眠くなる」という人は多いことでしょう。
実際のコンサートホールでも、オーケストラの演奏をBGMにして気持ちよさそうに眠っている人を見かけることがありますよね。
では、クラシック音楽を聴くと眠くなるのはどうしてでしょう?
実はクラシック音楽には、自然と眠くなる「効果」があります。
今回は、クラシック音楽に隠された睡眠のための効果について見ていくことにしましょう。
この記事の目次
音楽で不眠症は改善するのか?
書店に行くと、不眠症がなかなか治らない人のための「寝つきを良くするための方法」が書かれた書籍をたくさん目にします。
中には、寝つきを良くするためのCDが付録についた本もあり、一般的にも音楽には眠りの質を上げるための効果があると考えられているようです。
近年アメリカでも不眠症の対策として音楽療法が積極的に取り入れられており、睡眠障害者の音楽療法に使われる音楽CDの売れ行きも伸びているそうです。
音楽療法は薬を使わないより安全な改善策として注目されており、実際の効果も、ケイス・ウェスタン・リザーブ大学が行なった台湾国籍の高齢者30人を対象にした睡眠実験では、睡眠前の45分間に穏やかな音楽を聴いた半数の人から「長く深い眠りを得られた」という結果が出ています。
この実験は3週間に渡り行われましたが、実験期間中、音楽を毎晩繰り返し聴くことで「その音楽を聴くと眠れる」という習慣ができることが判明し、睡眠障害を改善する新たな療法として非常に画期的な発見であると共に、音楽が不眠症などの睡眠障害に有用であることが証明されました。
なぜ音楽を聴くと眠くなるのか?
音楽を聴くと眠くなるのはなぜか?その理由はいくつか解明されています。
音楽のリラックス効果
音楽にはヒーリング効果があり、その効果によって心身共にリラックスした状態を作ることで、脳に眠る準備をもたらしてくれます。
音楽が特殊な周波数などで脳に影響を与えているわけではなく、あくまで「音楽を聴くことでリラックスした体の状態が作られる」ということです。
眠るという行動は、そもそも身体と神経がリラックスした状態で始めて行われます。頭(脳)も体も覚醒している状態では、まだ自律神経が活発なままで、眠りたいと思っても眠れるはずがありません。
振動による効果
音は空気を振動させることで伝わっているのはご存知かと思います。もちろん音楽も「音」なので、空気の振動によって聞こえています。
そしてこの振動ですが、私たちの体を作っている細胞に「1/fのゆらぎ(エフ分の一のゆらぎ) 」を与えています。
「1/fのゆらぎ」というのは、ヒーリング・ミュージックの効能説明にも使われている言い方で、規則正しい音とランダムで規則性がない音の「中間音」のことを指していますが、人や動植物に、心地良さやヒーリング効果を与えると言われています。
体が音楽の持つ「ゆらぎ」の効果を受けることで、リラックスすることができ、結果的に眠りやすい状態が作られるのです。
音楽の中でも「クラシック」が眠りに最適な理由は?
ここまでで、音楽を聴くことで脳と体がリラックスして眠りやすい状態が出来上がるというのはご理解いただけたかと思います。
では、なぜ数ある音楽の中でもクラシックがよく眠れるのでしょうか?
本来は聴いていてリラックスできる音楽であればなんでも良いと思われますが、1/fのゆらぎは、小川のせせらぎやそよ風、小鳥のさえずり、鼓動や目の動きなど、私たち人間の体の動きも含めて自然界にあるものの中に多く存在しています。
もっと分かりやすくいうと、機械で作られた正確で完全なものの中にではなく、不確かで動きが一定でないものの中に存在しているのです。
クラシックは一定の速さで正確に演奏されているように聞こえますが、歪みや揺れ、音のズレなどの誤差が生じるため、脳と体が他の音楽よりも心地よく感じやすいのです。
流行りの音楽は機械音での打ち込みや一定のテンポの中でゆるぎなく刻まれ、感じ良く聞こえるように計算されているため、逆に心身を緊張したり興奮させたりする要素が強く、1/fのゆらぎの効果は得られません。
クラシック音楽の中でもより睡眠に効果的な作曲家は?
音楽には、体をリラックスさせるための効果があります。
その中でも、とりわけ良い睡眠のためには1/fのゆらぎの効果が高いクラシック音楽が最適です。
しかし、クラシック音楽と言っても普段聞き慣れないと、どの作曲家のどんな曲を聞けば良いか分からないのではないでしょうか。
クラシック音楽は一生かかっても聞ききれないほど多くの曲が作られています。
その中からどの曲を選べば睡眠に効果があるのでしょうか?
実はクラシック音楽の中でも、特別睡眠に良いと言われている作曲家がいます。
それはモーツァルトです。
モーツァルトは本名「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」と言い、オーストリアの音楽家でハイドン・ベートーベンと並び古典派音楽の代表でもあります。
そして、幼少時代から天才と言われていました。3歳からチェンバロを弾き、5歳で初めての作曲を行うというまさに神童です。
そんなモーツアルトが作った曲には、不思議な効果があると言われています。
モーツァルトの曲が睡眠に良い理由は?
モーツァルトの曲が睡眠に良い理由には、曲の周波数が挙げられます。
まず、私たちの体のメカニズムからご説明しましょう。人間の体は交感神経と副交感神経が交互に働くことでバランスを取っています。
交感神経と副交感神経
交感神経は緊張時やストレス時に働き、心身の活動を活発にしてくれている神経です。激しい運動や興奮したり緊張したりするのも交換神経の働きによるものです。
恐怖や危機感などの感覚も交感神経によるもので、日中の起きている時間や仕事中の時間は交感神経が働いていることで活動できているのです。
一方、副交感神経は心身を休めて回復を促すための神経であり、体のメンテナンスを担っています。
交感神経が緊張している時や日中の活動を可能にさせる神経なのに対して、副交感神経は睡眠時や休憩時、体と脳が休んでいる間に働きます。
つまり、副交感神経がきちんと働いていないと質の良い睡眠をとることが難しくなるのです。
この二つの神経を交互に機能させ、昼の活動時間と夜の休息時間には、心身のオンオフを切り替えて私たちは生活しています。
ところが、現代社会ではストレスが多く、交感神経の活動が高まりやすく、副交感神経の機能は低下しやすい傾向にあります。
副交感神経がうまく機能しないと、夜の眠りが浅くなったり、眠れないことで体が回復しなくなったりと様々な障害が発生します。
睡眠障害は、このように交感神経と副交感神経の神経機能の切り替えができていないことが原因の一つとなって発症していることが大半です。
眠れるクラシック音楽の周波音とは?
音楽には交感神経と副交感神経のバランスを程よく保つために有効な周波音があり、その数値が3,500~4,500ヘルツです。1ヘルツは1秒間に1周期の気圧変動があることを言います。
音楽の世界で言うと音域とヘルツの関係は以下のように分類されます。
▼重低音域(超低音域):16~40ヘルツ
ピアノ、ハープ、パイプオルガンなどの最低音や部屋の共鳴などの音域。一般家庭のステレオでは再生不可能な音域。
▼低音域:40~160ヘルツ
ドラム、ベース、オルガン、ギター、弦楽器の低音域にあたり。音楽を支える土台となる音域。
▼中低音域:160~320ヘルツ
金管楽器、木管楽器の低音域にあたる音域。
▼中音域:320~2,600ヘルツ
ほとんどの楽器の音が密集する中心的な音域。
▼中高音域:2,600~5,000ヘルツ
耳が最も敏感に感じる帯域で、音の透明度や音像の低位感、聴感上の音量などを大きく左右する音域。
▼高音域:5,000~10,000ヘルツ
楽器音の倍音成分により輝きを与え、その楽器らしさを表現する音域。
▼超高音域:10,000ヘルツ以上
臨場感や気配のような感覚、生々しさなどを伝える音域。
3,500~4,500ヘルツは中音域~高音域にあたり、音楽を聴いた時に、耳(体)が最も敏感に感じる音域なのです。
高音域の周波音は脊髄から脳にかけて神経機能を刺激する効果があり、体の生体機能に良い影響を与えます。
クラシックの中でもモーツァルトが作曲した曲には、この高音域の周波音が多く含まれているため睡眠効果が高まり、よく眠れるというわけです。
弦楽器だけでなく、曲の中に高周波の音を出すオーボエが使われていれば、その効果はさらに高まります。
睡眠効果だけじゃないモーツアルトの作用
睡眠に効果の高いクラシック音楽の作曲家「モーツアルト」ですが、よく眠れる以外にも様々な効果が認められています。
乳牛の搾乳増加、植物の成長、酒の発酵が進むなど、動植物への影響も大きいようです。
そして、不眠症の改善をはじめとする人への影響には、ストレス解消、慢性分裂症や自閉症の改善、高血圧や脳血管障害の克服、認知症予防と治療効果、がん患者の延命などに効果があるとそれぞれ研究が進められています。
他にも音楽療法による美容効果として、便秘改善、美肌効果なども挙げられています。モーツァルトを聴くことで体の不調が改善されたという声は多く、不思議な現象が実際に起こっています。
高周波の影響と効果
高周波には右脳を刺激する効果もあります。
通常、右脳はイメージ、想像、直観といったものを司り、左脳は論理的な思考、文字、言葉を司っています。
幼少期は左脳よりも右脳が優位にあるため、子供の想像力が豊かで直感が鋭いと感じるのは、右脳の働きが大人よりも活発だからであるためです。
年齢とともに左脳も発達するため、多くの知識を蓄えたり記憶を維持したりすることが可能になりますが、右脳は使われなければその働きを弱めてしまいます。
本来大人になると左脳と右脳、どちらの脳も発達してバランスが取れるようになるはずですが、毎日の仕事や勉強の影響で右脳よりも左脳の方がより発達傾向にあるのが現代人です。
脳のタイプによって睡眠時間が異なる
脳神経の研究で、脳のタイプによって睡眠時間が異なるという考え方があります。
左脳をよく使う人は睡眠時間が長く、右脳をよく使う人は睡眠時間が短いという考え方です。
脳の使い方によって睡眠時間が異なる理由は、左脳をよく使う場合、頭の中で常に倫理的または合理的に考えているため、睡眠中の脳内の記憶や情報の整理により多くの時間が必要となるためだそうです。
代表的なのはアインシュタインの例ですが、毎日10時間は寝ていたそうです。
現代人は左脳の使用頻度が高いとすれば、少しでも長く質の良い睡眠時間が必要となります。
ところがストレス過多のため神経系統の機能がうまく働かず、夜眠る時も交感神経が活発な場合、睡眠時間が必要なのに眠れないという最悪の状態にあるのです。
モーツァルトの音楽は高周波で右脳の刺激も行い、左脳とのバランスを取ります。
さらに、副交感神経も刺激されるため、1/fのゆらぎの効果との相乗で、さらにゆったりと落ち着いた気持ちでリラックスでき、よく眠れるというわけです。
睡眠前のモーツァルト鑑賞は、眠りのための体のコンディションを整える最高の音楽ということになります。
睡眠前にクラシック音楽を聴くときの注意点
睡眠に良いクラシック音楽ですが、眠る前に聴く時には注意が必要になってきます。
音楽を「しっかりと聞く」のは睡眠には逆効果となりますので、音楽を聴く際の音量にも注意を払いましょう。
聞こうとすることで脳が活性化してしまいますし、聞こうとすることによって体が活動モードに切り替わるので、反対に交感神経を高ぶらせることになります。
あくまで音楽はBGMとして流すようにしましょう。
イヤフォンやヘッドフォンで音楽を聞くのよりも、うっすらと聴こえてくるくらいでちょうど良いです。
最適な音量調節を行うのも、良い眠りのために必要な準備と言えるでしょう。
モーツァルト以外の安眠にいいクラシック
睡眠に良いクラシック音楽で一番に名前が挙がるのはモーツァルトですが、他にも睡眠に良い曲はたくさんあります。
バッハの『ゴールドベルク変奏曲』、ショパンの『雨だれ』、メンデルスゾーンの『バイオリン協奏曲』、ラベルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』など、モーツァルトの曲の特徴と同じように、睡眠に良い条件が揃ったクラシック音楽も数多くあります。
色々な曲や作曲家を調べて、好きな曲を集めたり、眠るために選曲した睡眠用プレイリストを作っておくのもバリエーションがあって良いですね。
前述したケイス・ウェスタン・リザーブ大学の睡眠実験でも、同じ音楽を繰り返し聞くことで「その音楽を聞くと眠れるようになった」という結果が立証されていますので、眠る専用のプレイリストを作ることは、自分が寝付きやすいパターンを見つけるということにつながります。
睡眠障害を改善するためには大変有効な手段と言えるでしょう。
まとめ
クラシック音楽には心身をリラックスさせる効果が高く、睡眠=リラックスした状態をつくるには大変有用であると言えます。
眠る前に音楽をかけておくだけですが、音楽をかけるという行為がそもそもテレビを消したり、パジャマや寝巻きに着替えたりと眠るための準備をするための「きっかけスイッチ」となっていて、脳と体と気持ちが自然と睡眠に向かうことが出来るようになります。
不眠症の場合、眠ることを意識しすぎていたり眠れないことでさらに交感神経が活発になっている可能性も高く、眠る行為自体が自然となることで、緊張から解放されてリラックス=眠ることが出来るようになるのではないでしょうか。
音楽をかけるだけなので、睡眠に悩みのある方や不眠症の方は一度試してみる価値があるといえるでしょう。