
ブロムワレリル尿素は医療用医薬品で、不眠症や不安緊張状態を鎮静に使われるものです。
ブロムワレリル尿素は古くから睡眠薬として使用されてきましたが、体にとって危険で、使用方法を間違うと死に至る怖い薬でもあります。
ブロムワレリル尿素の睡眠効果とその副作用についてみてみましょう。
この記事の目次
ブロムワレリル尿素の危険性と致死量
ブロムワレリル尿素とは20世紀初頭に出来た鎮静睡眠作用のあるモノウレイド系の化合物です。
現在でも、頭痛薬のナロンやナロンエースなどの成分として含まれていますし、アリルイソプロピルアセチル尿素と合わせてウットという薬として一般薬として流通しています。
しかし、ブロムワレリル尿素はかの文豪である太宰治が何度も自殺に使ったというカルモチンの主成分でもあり、非常に危険性の高い薬です。
現在ではカルモチンという名前ではなく、いろいろな市販薬の成分として使用されていますが、日本では2009年以降は風邪薬には使用できない薬です。
アメリカではブロムワレリル尿素を含む臭化物を医薬品として使用することを禁じています。
ブロムワレリル尿素は副作用など睡眠薬として用いることに非常に怖い側面があるということで20世紀前半にはバルビツール酸系の睡眠薬が開発され、1960年代からは現在でも睡眠薬の主流として使用される安全性の高いベンゾジアゼピン系の睡眠薬が開発されました。
ブロムワレリル尿素は、20~30グラムで致死量に至り、薬を長期間服用すると精神への影響が懸念されます。
ブロムワレリル尿素の作用時間
ブロムワレリル尿素はブロバリンの一般名ですが、睡眠薬として非常に古く100年ほどの歴史があります。
ブロムワレリル尿素を含んだ睡眠薬は即効性に優れています。
薬を服用してから血液中での濃度が最大になるまでにかかる時間を最高血中濃度到達時間と言いますが、ブロムワレリル尿素の最高血中濃度到達時間は30分ほどと言われています。
ブロムワレリル尿素を含む睡眠薬を服用すると飲んでから約20分で眠気が出てくるので、睡眠薬の作用時間としては比較的早い、即効性があるものであるということが言えます。
その後、ブロムワレリル尿素が作用している時間は服用する睡眠薬の量や個人差などがありますが、約4時間ほどです。
睡眠薬は作用や作用時間に個人差がありますが、睡眠薬の血中濃度が最大の時より半分以下に下がることを半減期と言いますが、ブロムワレリル尿素の半減期は2.5時間と短時間です。
しかし、代謝物のブロムという成分の半減期が人によっては10日以上と長期間であるために、ずっと眠気が続いてしまうという人もいます。
ブロムワレリル尿素はどのように働くの?
ブロムワレリル尿素は服用すると体内で臭素であるブロムというイオンになりますが、このブロムイオンが脳の細胞外液でクロールイオンと結合することによって脳神経の働きを抑制します。
脳神経が落ち着くことで鎮静作用が生まれます。
ブロムイオンが睡眠を司る脳の覚醒中枢機関にだけ作用すればよいのですが、脳の他の部分である大脳皮質や上行性脳幹網様体賦活系など様々な部分に作用してしまうことによって、睡眠、鎮静効果だけに留まることなく、身体機能全体に作用してしまうことが問題です。
ブロムワレリル尿素の副作用
ブロムワレリル尿素は歴史も古く、睡眠作用も非常に高く睡眠薬としての機能を充分兼ね備えた薬であるにも関わらず、現在では睡眠薬としてほとんど用いられることがありません。
それは、副作用が非常に危険であるからです。
ブロムワレリル尿素は睡眠薬として長期間、大量に服用することで命に関わるような重大な副作用があります。
現在では睡眠薬としていろいろな新しい薬が開発され、安全性も高く効果も高いという優秀なものがあるにも関わらず、睡眠薬に対して非常に危険な薬というイメージが付いて回るのは、古くからあるブロムワレリル尿素のような睡眠薬が命を危険にさらすというイメージがあるからかもしれません。
ブロムワレリル尿素を服用すると、体内でブロムイオンに変化し、ブロムイオンが脳内で作用することによって睡眠作用が働きます。
このブロムイオンが睡眠に働く脳の覚醒中枢にだけ作用すればよいのですが、ブロムイオンが脳内の様々な機関で作用してしまうことも副作用の原因の一つです。
ブロム中毒とは
ブロムワレリル尿素が体内でブロムイオンというものに変化しますが、このブロムイオンの血中濃度が高くなりすぎると「ブロム中毒」というものになる危険性があります。
ブロムイオンというのは臭素と言われています。
ブロムワレリル尿素を大量に服用したり、長期間に渡って服用し続けることで臭素であるブロムイオンが大脳皮質の知覚領や運動領で興奮抑制されて鎮静しますが、臭素自体が一度体内に入ると排出するまでに非常に時間がかかり長期間体内に蓄積することになり、脳内の鎮静作用が必要以上に長時間働く危険があります。
これがブロム中毒とされるものですが、症状としては、うつ状態や不安、見当障害、混迷障害などの精神的障害や発疹やふらつき、しびれ、震えといった運動失調、脳の萎縮、倦怠感、意識障害、最悪の場合は死に至るということもあります。
ブロム中毒には慢性と急性があります。
急性のブロム中毒はふらつき、しびれ、震えという神経症状や倦怠感、意識障害などが起こり、慢性ブロム中毒は脳が萎縮します。
主に大脳が萎縮することによって認知機能の低下が進み、小脳の萎縮によってめまい、失調性歩行、震え、ろれつが回らなくなるという障害が認められます。
耐性
睡眠薬の副作用として耐性と言うものがあります。
同じ薬をずっと飲み続けることで段々体がその薬の作用に慣れてしまい、薬の作用が働き難くなるというものです。
耐性というものは徐々に体内で起こります。
最初は少量で睡眠効果が得られていた薬でも徐々に効きが悪くなったと感じるようになります。
これは耐性が徐々に形成されていることが原因ですが、以前と同じような睡眠効果を得るためには、以前に服用していた薬の量を増やすことになります。
薬の量を増やすことによって一時的には再び以前のような睡眠効果を得ることが出来るようになりますが、またブロムワレリル尿素に対する耐性が出来てしまうので服用する量を増やすことになります。
このように体内で薬の耐性が出来ているにも関わらず、薬の量を増やして以前と同じような効果を得ようとするのでどんどん体がブロムワレリル尿素に対する耐性を強くしていきブロム中毒という状態に陥ります。
依存性
睡眠薬全般の副作用として耐性と並んで問題になるのが、その依存性です。
依存性というのは薬を服用することで眠れるようになると、今度はその薬がないと眠れないという状況になることです。
依存性という副作用が徐々に出来てくると、自分の力では眠れない、薬がないと眠れないということになってしまいます。
本来は自分の力で睡眠するのですが、睡眠薬がないと眠れないと思ってしまうので精神的に不安定になったり、汗が出たり、離脱症状になります。
ブロムワレリル尿素に対して依存性が出来てしまうと、ブロムワレリル尿素を飲まないと眠れなくなり、これが睡眠薬の長期服用につながります。
ブロムワレリル尿素は長期間服用すると臭素であるブロムイオンが体内に常にあるという状態になり、徐々にブロム中毒になる危険があります。
呼吸抑制や血圧低下
ブロムワレリル尿素はブロムイオンが脳の様々な場所を鎮静させてしまうことが問題で、告活動を抑制させたり、心臓の働きを抑制してしまい、血圧が下がることがあります。
呼吸抑制や血圧低下というのは生命にかかわる重大な問題です。
睡眠を取るためにブロムワレリル尿素を服用して、寝ている間に副作用が働き呼吸抑制や血圧低下で死亡する危険もあります。
眠気が残る
睡眠薬としての効果は非常に高いのですが、効きすぎて眠気が翌日まで残ってしまうと副作用ということになります。
翌日になっても眠気が残って倦怠感があったり、集中出来ない、だるい、ふらつくというものは副作用です。
適性量を服用していれば作用時間は約4時間ですし、血中濃度が半分になる半減期も短めなので特に問題はないはずですが、人によっては代謝物のブロムが体外に排出されずに薬が効きすぎてしまい眠気がずっと続きます。
意識がもうろうとする
ブロムワレリル尿素は即効性に優れた睡眠薬ですが、即効性があるがゆえに服用したあとに自分に起こったことに記憶がなくなったり、意識がもうろうとしたり、意識のないところで歩行したり、会話していたりします。
睡眠薬ですので意識がもうろうとするのは当然ですが、睡眠状態になっていない段階で中途半端な状態になり、一時的に健忘症になったり、意識がもうろうとします。
ブロム中毒の対処法
急性のブロム中毒の場合、早急に処置を行えば後遺症が残らずに完治することもあります。
急性のブロム中毒というのは経口急性中毒で6グラム、致死量は20~30グラムと言われています。
慢性のブロム中毒は脳が萎縮してしまっているので治療しても完治せず、ほとんどの場合後遺症が残ります。
いずれにしても緊急の場合は早急に救急車を呼んだり、疑わしい場合は主治医に速やかに相談しましょう。
ブロムワレリル尿素は使用するべきではない
ブロムワレリル尿素は歴史が100年ほどもある睡眠薬で最も古いタイプの睡眠薬です。
昔は睡眠薬も今ほど種類がありませんでしたし、副作用の危険性もあまり知られていなかったということもあり広く使用されてきましたが、ブロムワレリル尿素はブロム中毒をはじめ様々な副作用があるということは知られています。
睡眠薬としての効果は非常に高いのですが、最悪の場合は命にも関わるほどの副作用がある薬というのは極力服用を避けるべきです。
幸い、長い年月を経て睡眠薬の研究開発も進み、ブロムワレリル尿素に続き、バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン睡眠薬と徐々に副作用の危険の少ない睡眠薬ができました。
このため、現在では非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を処方する医師が増えたために、ブロムワレリル尿素を処方する医師はいません。
また、もっと最近では以前とは全く発想の違うメラトニン受容体作動薬という睡眠薬も生まれています。
メラトニンというのは睡眠ホルモンといわれていますが、メラトニンが分泌されることによって睡眠が促されるということを利用して、薬で人工的に睡眠ホルモンであるメラトニンを刺激することによって、より自然に近い睡眠を起こそうというやさしい睡眠薬も存在します。
作用は自然に近い状態なので強くはありませんが、大きな副作用がなく安全性が高く、耐性や依存性がないというものもあります。また、オレキシン受容体拮抗薬というものもあります。
オレキシンという覚醒に関わる物質をブロックして睡眠を促すというものもあります。
効果が少ないという人もいますが、強い効き目がある反面、強い副作用のある睡眠薬を使用することに抵抗のある人には非常に便利な睡眠薬です。
現在ではいろいろなタイプの睡眠薬がありますので危険性の高いブロムワレリル尿素の睡眠薬を服用することを避けて、副作用が少なく体に優しい睡眠薬を選ぶことが可能です。
いずれも担当の医師と不眠症の状態をよく相談して適切な睡眠薬選びましょう。
市販薬に注意する
ブロムワレリル尿素はその副作用の危険からアメリカなどでは使用を禁止されている危ない薬の一つです。
それにも関わらず、日本ではブロムワレリル尿素を含んだ様々な薬が今尚公然と流通しているので、病院に行かなくてもブロムワレリル尿素を含む薬を簡単に手にすることが出来ます。
最近では総合感冒薬などにはブロムワレリル尿素などは配合を禁止されていますが、鎮痛薬や頭痛薬などの一般的なものにブロムワレリル尿素は含まれています。
睡眠導入剤というものはドラッグストアで購入出来ますが、睡眠薬は基本的には医師の処方がないと手に入れることが出来ません。
しかし、鎮痛薬や頭痛薬は安易にドラッグストアで購入したものを日常的に服用している人はたくさんいると思われます。
もし、自分が服用している鎮痛剤や頭痛薬などがあれば成分表を良く見てブロムワレリル尿素などが含まれているときは過剰に常用しないようにするということを意識することが大切です。
まとめ
睡眠薬であるブロムワレリル尿素は睡眠薬としては歴史があり、その効果も優れていますがその反面、非常に副作用がある睡眠薬です。
現在では様々なタイプの睡眠薬が開発され副作用の少ない安心でいる睡眠薬もあります。
ブロムワレリル尿素を含む睡眠薬の服用を避けてなるべく安全な睡眠薬を選択するようにしましょう。