
「ベルソムラ」とは、スボレキサントを成分とした、不眠症や睡眠障害に効果のある比較的新しい睡眠薬です。
眠りを維持する作用時間が長いため、夜中に目覚めてしまう「中途覚醒」の症状にも効果を発揮します。
ではこのベルソムラの働きと効果、そして副作用の面からも詳しく解説していきましょう。
この記事の目次
ベルソムラ錠とは?
「睡眠薬ベルソムラ錠」とは不眠症に適応する「オレキシン受容体拮抗薬」で、2014年11月にMSD社から発売されました。
使用量は、成人が1日1回20mg、高齢者には1日1回15mg、寝る直前に経口投与します。
「ベルソムラ」という名前は「美しい眠り」という意味に由来しており、成分の一般名は「スボレキサント」です。
覚醒に必要な「オレキシン受容体」に作用して、睡眠を誘発して快眠を持続させるという、従来の睡眠薬とは異なるメカニズムをもった、不眠症や睡眠障害に有効な新しいタイプの睡眠薬です。
ベルソムラ錠の作用する仕組み(作用機序)
眠りは「脳」が制御しています。
脳が覚醒すれば活発に活動できるようになり、脳が鎮静すれば眠りにつけるようになります。
そして脳の覚醒や鎮静、すなわち活動や入眠は、脳で放出される「オレキシン」という物質によってコントロールされています。
オレキシンが多く放出されると脳は活発になり、オレキシンが少ないと脳は活動できなくなり眠くなります。
ベルソムラは、このオレキシンの作用を阻害して眠りに誘う薬です。
オレキシンが作用するには、オレキシンを受け入れる「オレキシン受容体」という物質と結合しなければなりません。
そこで、ベルソムラはオレキシンが受容体と結合するのを邪魔して、オレキシンの作用を抑え、眠りにつきやすい状態を作り出すのです。
つまり睡眠薬ベルソムラは、身体が生理的に行っているメカニズムに働きかけて快眠をもたらす新しいタイプの睡眠薬なのです。
また、オレキシン受容体には、「オレキシン1受容体(OX1)」と「オレキシン2受容体(OX2)」の2種類があるといわれています。
どちらも覚醒に関係のある受容体ですが、オレキシン2受容体(OX2)のほうが影響は大きいようです。
ですがベルソムラは、どちらの受容体に対しても同等に遮断する働きがあるため、「両方のオレキシン受容体拮抗薬」という意味から「DORA」とも呼ばれています。
ベルソムラ錠の特徴
ベルソムラの特徴としては、
1.効果がはっきりしている
2.副作用が少なく、特に耐性や依存性などが少ない
3.健忘やふらつきといった副作用が少ない
4.睡眠が深くなるため夜中に起きてしまう中途覚醒が改善できる
5.処方日数の制限がないと
などが挙げられます。
ベルソムラは、オレキシンの作用を弱めて脳を覚醒から睡眠に切り替えることで自然に近い眠りに導きます。
ですから、これまでのベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べればゆるやかではありますが、入眠障害に有効です。
ベルソムラが本領を発揮するのは中途覚醒です。
レム睡眠と深い睡眠が増加して浅い睡眠が少なくなりますので、深い眠りが長時間続いて中途覚醒しにくくなります。
たとえ寝ている途中で目が覚めてしまっても、またすぐに眠りやすくなるのです。
質の良い眠りがもたらされるので、不眠症や睡眠障害で苦しんでいる方には朗報ではないでしょうか。
また、耐性や依存性などもほとんどなく、ベンゾジアゼピン系睡眠薬に多い健忘やふらつきなどの副作用も少ないようです。
そして、ベルソムラは依存性が低いので向精神薬に指定されていません。
ですから服用できる日数に制限がなく、60日や90日など長期で処方してもらうこともできます。
効果はどのくらい持続するのか?
ベルソムラは飲んでから効果が出始めるのに10~15分、血中濃度が最高値に達するのに1.5~3時間、そして効果の持続時間は6~8時間となっており、健康な成人の平均的な睡眠時間とほぼ同じです。
つまり、寝る直前に薬を飲めば翌朝起きる頃までは効果が続き、夜中に起きることなく質の良い睡眠が得られるということです。
ベルソムラは入眠障害の改善に有効で、中途覚醒や再入眠には抜群の効果を発揮する万能型の睡眠薬と言えるでしょう。
ベルソムラの半減期
ベルソムラは、空腹時では最高血中濃度に到達する時間は約1.5時間ですが、食後に服用すると約3時間かかります。
薬の濃度が体内で半分になる「半減期」にかかる時間は、空腹時で約10時間ですが、食後の服用では約11時間です。
そして効果の持続時間は、空腹時が6~8時間で、食後の服用は約10時間となります。
ベルソムラの作用時間は食事によって大きく影響を受けるため、食後や食事中に薬を飲むと効果がでるまでに時間がかかるのです。
睡眠薬ベルソムラの注意書きにも、就寝前に服用するようにと書いてあります。
一旦薬を服用して効果があらわれ始めたら、安全の面からも寝ている状態が望ましいのです。
寝る直前に薬を飲み、なるべく早く布団に入るようにしましょう。
また、寝る時間から逆算して早い時間に食事を済ませ、薬が早く効く空腹状態にして薬を飲んでください。
ベルソムラ錠の副作用は?
ベルソムラは耐性や依存性がない睡眠薬ではありますが、副作用がまったく無いとも言えません。
薬である以上は体質によって合う人や合わない人もあり、効果が表れなかったり、副作用が出ることもあります。
ベルソムラの副作用として多いのは傾眠や眠気で、約4.7%、およそ20人に1人の割合となっています。
次に頭痛で約3.9%、そして疲労感が約2.4%です。
傾眠・眠気
睡眠薬全般にみられる副作用です。
ベルソムラは翌朝には効果がなくなっているよう開発されていますが、人によっては翌日になっても眠気が残ったり、集中力や注意力が低下することもあります。
服用した翌日にも眠気が残っているようなら、車の運転や機械作業など危険をともなう作業は控えるようにしてください。
頭痛・疲労感
この症状も、どの睡眠薬にもみられる副作用です。
時間が経てば回復することも多いのですが、症状がひどい場合やいつまでも続く場合には医師や薬剤師に相談してみましょう。
悪夢
ベルソムラにはレム睡眠を増やす作用があり、レム睡眠時は夢を見やすくなります。
悪夢を見るのはその作用の特徴から起こるものではないかと言われています。
不眠症の方や睡眠障害の方はストレスが要因となっていることが多く、そのため悪夢を見てしまうことがあるようです。
ナルコレプシーのような症状
「ナルコレプシー(過眠症)」とは睡眠障害の一種です。
自分の意思に関係なく突然眠ってしまったり、全身の力が抜けてしまう病気で、「眠り病」とも呼ばれています。
ナルコレプシーになっている人の約90%がオレキシンの分泌障害だといわれており、オレキシン不足が原因の一つになっていると考えられています。
ベルソムラはオレキシンの作用を抑える働きがあるので、理論上ではナルコレプシーのような症状になる可能性はあり得ると考えられます。
とはいえ、ベルソムラの市販後に調査したところ、2014年11月~2015年5月には約75000人が購入していたようですが、ナルコレプシーのような症状が出たという報告はありませんでした。
引き続いての注意は必要ですが、かなり低い確率であるとみられています。
ベルソムラ錠が効かない場合、その理由とは?
不眠の原因はオレキシンだけではない
ベルソムラは脳を覚醒させるオレキシンの作用を阻害して眠りに誘う薬です。
ですが、オレキシンだけが睡眠をコントロールしているわけではありません。
他にも睡眠に関わっている物質はあります。
オレキシン以外の物質が睡眠の妨げとなっている場合には、ベルソムラを服用しても効果は期待できません。
ベルソムラは中途覚醒に効果を発揮する
睡眠薬ベルソムラは、その作用時間の長さから、夜中に目覚めてしまう中途覚醒の改善や再入眠のしやすさで本領を発揮します。
自然な眠りに誘う薬であるため、なかなか寝つけない入眠障害については、他の睡眠薬ほど得意とはいえません。
寝付きが悪い場合は、マイスリーやハルシオンのような短時間型の睡眠薬に変えてみるのも一つの方法です。
また、中途覚醒に効果のある睡眠薬としては、ロヒプノールもバランスの良さから人気があります。
不安障害などの精神的要因が原因の場合
ベルソムラには抗不安作用が含まれていません。
不安な気持ちを和らげる作用はありませんので、眠れない原因がイライラや不安などの精神的なものに起因する場合は、抗不安作用をもつ睡眠薬に切り替えてもらう方がいいかもしれません。
ベルソムラが体質に合っていない
どんな薬でも、体質によって効果や副作用のあらわれ方には個人差があります。
一定期間使ってみても改善されない場合は、体質に合っていないのかもしれません。医師に相談して体質に合った薬を処方し直してもらいましょう。
ベルソムラ錠の服用に適している人とは?
他の睡眠薬を服用していない方
ベルソムラは原則として他の睡眠薬との併用はしません。ですが、睡眠薬を切り替えるために併用していくケースもあります。
他の睡眠薬を使用しても効果が得られなかった場合には、新しいアプローチ方法で作用するベルソムラを試してみることもあるのです。
夜間の快眠を維持させたい方
ベルソムラは、効果として夜中の睡眠を維持することが得意な薬です。
夜中に何度も起きてしまう中途覚醒にこそ真価を発揮します。
また、夜中に目が覚めると寝付けなくなるという方にも、再入眠しやすくなるベルソムラは適しています。
高齢者
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬には筋弛緩作用があり、ふらついて転倒してしまうこともありましたが、ベルソムラでは筋弛緩作用がかなり軽減されていますので高齢者に向いていると言えます。
また、高齢者には「せん妄」という一時的に頭が混乱する意識障害が起きることがあります。
一般的な睡眠薬は、せん妄の症状を悪化させたり、せん妄の誘因となる可能性があるため高齢者には服用させにくいと言います。
しかしベルソムラはせん妄状態の方でも使える薬ですので、その点でも高齢者に適していると言えます。
依存性の少ない睡眠薬を使用したい方
ベルソムラは他の睡眠薬と比較すると、非常に依存性が低い睡眠薬となっています。
不眠症や睡眠障害が改善されて薬を飲む必要がなくなったとき、薬離れしやすいのも大きな利点です。
服用時に気をつけること
一緒に服用できない薬
ベルソムラは、体内に吸収された後、肝臓や小腸に存在する薬物代謝酵素(CYP3A)によって代謝され効力を失って、最後は排泄されていきます。
ところが、同じくCYP3Aに代謝される薬を一緒に飲むとCYP3Aが不足してしまい、ベルソムラが十分に代謝されなくなってしまいます。
また、薬によってはCYP3Aが作られるのを邪魔するものもあり、一緒に服用するとベルソムラが代謝されず効果が非常に強くなって、副作用を出す危険性が高まってしまうことがあります。
「抗真菌薬」のイトラコナゾール、ボリコナゾール・「マクロライド系抗菌薬」のクラリスロマイシン・「抗HIV薬」のリトナビル、サキナビル、ネルフィナビル、インジナビル・「抗HCV薬」のテラプレビルなどがそれに当たります。
とくにクラリスロマイシンは、気管支炎や副鼻腔炎などでよく処方されています。
これらの薬を服用している場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
食品にも注意が必要
グレープフルーツジュースもCYP3Aを阻害するため、一緒に飲んではいけません。
また、アルコールには脳機能を抑える働きがあります。ベルソムラの働きを相乗的に強めてしまい、副作用が出る恐れがあるので控えましょう。
お茶やコーヒーなどのカフェイン類もベルソムラの効果に影響を与える可能性がありますので、併用は控えた方が無難です。
用法・用量、医師の指示は必ず守りましょう
1日1回、就寝前に決まった量を飲んでください。
ベルソムラの効果の持続時間より短い時間で起床しなければならない場合や、仮眠などでは服用しないでください。
薬の効果で眠気が取れないため、思わぬ事故が起きないとも限りません。
高齢者の場合
ベルソムラの服用量は、成人が20mgで、高齢者は15mgとなっています。
高齢者は血中濃度(血液中の薬物濃度)が高くなりやすいことが臨床試験で明らかになっているためです。
高齢になると生理機能が低下する傾向がありますので、15mgの用量を必ず守って、症状を見ながら医師の指示のもと服用しましょう。
妊娠中・授乳中の方
妊娠中にベルソムラを使用することに対しての安全性はまだ報告されていません。
症状が重篤な場合はまず専門医に相談してください。授乳中の使用も避けたいところですが、やむを得ない場合は授乳を中止しましょう。
まとめ
不眠は大きく分けて、なかなか寝付くことができない入眠障害と、寝ていても目が覚めてしまう中途覚醒の2つの種類があります。
入眠障害には即効性のある薬が、中途覚醒には作用時間が長い薬が求められるのですが、ベルソムラは即効性も作用時間も効果があるバランスのとれた睡眠薬だと言えます。
発売されてからまだ数年しか経っていない歴史の浅い薬ではありますが、今後は不眠症や睡眠障害で快眠を得られない人たちの心強い味方となってくれることでしょう。